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評者◆添田馨
声で書かれた時間の書物――詩の朗読会「われわれは『以後』の現実を生きているのではない」
No.3130 ・ 2013年10月12日




◆九月初頭の晴れた日曜日に、私は、機動隊に両側をガードされながら日章旗や旭日旗を振りかざし、意味の分からないスローガンを怒号しながら車道を堂々と練り歩く異様な集団と対峙していた。歩道側に集結した人々から抗議のヤジや憤りの叫び声、また時折デモ隊に向かって突撃をくり返す男たちと、それを制止する機動隊員たち。
 しかし、これほど声が入り乱れ、これほど周囲が騒然としているにもかかわらず、その場を支配する音のない空虚さを、私は一方で意識せざるを得なかった。というのは、まさにその前日(9/7)に聴きに行ったばかりの詩の朗読会「われわれは『以後』の現実を生きているのではない」(主催:思潮社)で、か細く鳴るように響いていた“声”たちとの目くるめくような落差に対し、どうにも自分が渡りをつけられないでいると思い至ったからである。
 若手詩人六名による交互の朗読は、声を発するというより何とか聞き取れるギリギリの声量での呟きに近い印象を与えるものだった。水を打ったようにシンと静まり返る地下の小さな会場は、闇のなかで姿の見えない聴衆たちの気配をもすべて吸収し、時折嗚咽すら混じる朗読の声と相俟って、自分の無意識がそのまま〈場〉に置き換わったような異質な時間を創出していた。
 朗読後のシンポジウムでは、中尾太一が、自分が詩を通じて最も伝わって欲しいと願うのは“友愛”なのだという意味の発言をしていたのがひどく心に残った。また岸田将幸は、今この場にうまれた詩の“身体”に自分はとても似たいのだという不思議な言い方を(聞き違いでなければ)していたと思う。生きることの肯定性がもうそこにしかなく、自分が詩の原子核のなかに追い詰められてしまったかのような切迫感によって、彼等の朗読はまさに声で書かれた時間の書物そのものであった。
 外界と隔絶したこの地下スペースもまた、来たるべき詩のささやかな温床であらんことを願わずにはいられなかった。







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