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評者◆小嵐九八郎
現代史を底の人人から書いた小説
ある殺人者の回想
勝目梓
No.3129 ・ 2013年10月05日




◆高校の後輩だが、世の評価も実際も桁外れに立派なSという作家に「小嵐さんは縄文人ですね」と呆れられたことがある。その通り、この傾きは年年激しくなり、先の参議院の選挙の結果には、いきなりイランや北朝鮮や破綻したデトロイトに移住したような気分に陥る。それで、老人としては反省しなければと、はっ、と思う。改憲して戦争をするという過酷さは日本史の過去の拡大再生産に過ぎない。原発維持と推進は、産業革命以来の人類の科学への信仰と拝跪を加速させていることにあり、先の大戦で原爆を開発し使用しても懲りず、やっぱり人類史破滅への様子。ここいらの現代史を、若者に、易しく、生生しく、暑さを限りなく持ち、伝える必要がある。そう、現代史を。当たり前、テストの出来で少年や青年の未来を決めてしまう現代史のことも問題だけれど、やはり、高校入試、大学入試は現代史を必須とすべきだ。“屈辱史観”で変になろうと、暗記だけで済ます青少年がいようとも、せめて「日独伊三国同盟」「大政翼賛会発足」「ポツダム宣言受諾」「極東軍事裁判」「三井三池炭鉱争議」「六〇年安保」「ソ連崩壊」ぐらいの史実だけは知っておいてもらわないと、日本滅亡は必至となる。「滅亡で良い」という選択肢があるって? うーん、子どもたちの健気な表情を見ると、そうとはならぬ。
 いけない、先がない。こんな暗さと焦りの中で、現代史を底の人人から書いた小説を読んだ。勝目梓氏の『ある殺人者の回想』(講談社)がこれ。勝目氏自身が、炭鉱、しかも、海の底のそれで働いていた経験を持つので、敗戦の匂いの濃い詩、敗戦後の日本復興時の石炭の重さと労働の過酷さを知り抜いている。貴重な体験をフルに生かし、されど、男と女の一途なる情を(一度も寝ないのに!)、政治史の暗がりを含めて描いているのだ。かつての氏のロマンの滾り『獣たちの熱い眠り』が別の地平へと、人と人との、男と女の、せつない歴史へと辿り着き始めている。







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