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評者◆秋竜山
「怖い絵」さまざま、の巻
No.3128 ・ 2013年09月28日




◆綿引弘『「怖い絵」で読む世界の歴史』(三笠書房知的生きかた文庫、本体七五二円)を読む。これは怖い。
 〈「敵の生首を弾丸にした残酷さ」この絵は、十二世紀にイスラム教徒の城を攻撃する十字軍を描いたものである。(略)プロペラ状の二本の棒が柱に付けられているのが投石機で、弾丸の石を入れる籠にはイスラム教徒の生首が入れられ、敵の城めがけて生首が次々に打ち出されている。敵の戦意喪失を狙った十字軍の作戦であるが、考えてみると残酷そのものである。〉(本書より)
 文字を読んだだけで充分怖い。本書に掲載されている絵は、生首が宙を舞っている。怖い、怖い。次から次へと怖い絵が……。そして、「エッ!! この絵のどこが「怖い絵」なのだろう」と、首をひねった絵。ピカソの代表作「ゲルニカ」である。ハテ? ちっとも怖さをともなわない。
 〈この絵はあまりにも有名なピカソの代表作「ゲルニカ」である。全体に陰鬱な暗い色彩で、死んだわが子を抱いて嘆き悲しむ母親(左端)をはじめ、多くの犠牲者や牛馬がデフォルメされた姿で描かれている。〉(本書より)
 文章を読むと、怖い絵だろうと想像できる。ところが、絵そのものからの印象は、怖さを感じさせないのである。文章を読んだ後なら、「そーいう絵なのか。だったら怖い」となるのだが、最初に絵だけを見せられて「どーだ。怖いだろう」と、いわれても、この絵のいったいどこが怖いのかという、怖さが全然伝わってこない。なぜ、なんだろうか。ピカソというくらいだから、芸術性が強く高度であるということか。デフォルメが強過ぎるというか、ピカソそのもののデフォルメである。おどろおどろしい怖さがなく、洗練されたような、要するに芸術作品過ぎるというのか。芸術作品化しすぎると、怖さの部分が飛んでしまうのか。ピカソの絵のうまさばかりが眼についてしまう。私は、もっと俗っぽい絵を望んでいるのかしら。この絵は、もちろん風刺画であるが、ミステリー画でもある。そのミステリーの部分を説明されて、初めて絵の意味がわかる。わかると、怖い絵としてとらえられるのだ。ゲルニカとはスペイン北部の町の名前である。ゲルニカの意味も、わからなかった。どーいう意味のタイトルであるか不思議でもあった。絵をみていると、なんとなくゲルニカという感じがしてくるから不思議だ。
 〈じぶんは明瞭にスペインを苦痛と死滅の海に投げこんだ軍閥にたいする憎悪を表現している」(富永惣一「ピカソ」岩波新書)〉(本書より)
 一気に描きあげた大作である。一気に描きあげたということは、絵からつたわってくる印象が強く感じられる。生の絵をみたら、ゾクッとするだろう。たぶんピカソは鼻息荒く(あの大きな鼻の穴で)、ギョロリとした大きな眼をひんむいて、絵筆を走らせたであろうと、想像してしまう。別の絵で〈ナチス党の選挙ポスター〉が掲載されている。
 〈上の文字FRAUENは「女性たちよ!」という呼びかけである。下は「アドルフ=ヒトラー!」とある。うつむいて意気消沈しているのは失業した夫で、このポスターは、夫にアドルフ=ヒトラーへの投票を促すように婦人たちに呼びかけているのである。〉(本書より)
 そして、ナチス党が第一党に躍進した。効果満点のポスターである。結果として怖い絵になってしまったのである。







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