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評者◆伊達政保
謀略、諜略、宣伝は国内にも適用される――6年以上の歳月をかけて楠山忠之監督のドキュメンタリー映画『陸軍登戸研究所』が完成
No.3125 ・ 2013年09月07日




▼何とかぎりぎり間に合ったか。戦前を知る証言者が年々高齢化し、歴史に埋もれてしまおうとする現在、6年以上の歳月をかけて、このドキュメンタリー映画が完成した。楠山忠之監督の『陸軍登戸研究所』だ。これまで当該の研究者であった伴繁雄著『陸軍登戸研究所の真実』など数冊の本は有るものの、敗戦時の証拠湮滅により、その実態を知ることは殆ど出来なかった。オイラがその名を知ったのも市川雷蔵主演の映画『陸軍中野学校』シリーズによってだった。秘密戦、謀略戦、諜略戦の兵器や材料の研究開発、一方で風船爆弾の製造ということでも知られるようになってはいたが、内実はベールに閉ざされたままだった。大学時代、「全学評」と大書された明大生田校舎を小田急線の車窓から見上げ、あそこが「陸軍登戸研究所」だったのかと思ってはいた。
 近代総力戦に入ると、戦争は武力戦ばかりでなく、諜報、謀略、宣伝戦が重要となってくる。その人材を「中野学校」が、その資材を「登戸研究所」が受け持った。小型無線機、小型カメラ、秘密インキ、偽札等から、爆弾、毒薬、細菌、殺人光線(レーザーや電磁波)、風船爆弾に至るまで研究開発が行われた。日本の知性の粋を集めたと言われるが、どう見てもその実態は家内制手工業。それらの技術の一部は戦後日本の軽工業の発展に寄与している。なにせ所長が紙、繊維の研究(偽造紙幣のため)の第一人者で、戦後には繊維業界の権威となるくらいなのだから。そうした面ばかりではない。毒薬などの研究では速効、遅効の動物実験だけでなく、中国での人体実験をも行っていた。また一部の研究者は戦後米軍に協力し、現在でもその内容は墓場まで持っていきますと答える状況なのだ。自由で明るい雰囲気の研究所との証言がある一方で、そうした実態があった。
 また風船爆弾の製造に駆り出された女子挺身隊の方々の証言により、東京ばかりでなく地方でも過酷な労働によって手作りで製造されていたこと、放球作業の実態も初めて知った。米国内の報道管制によりあまり知られてはいなかったが、風船爆弾の被害は結構大きく死者も出ていた。戦後になって自分たちの作った爆弾による被害者を知り、米軍の空襲で何万人も殺されているのにという反対意見もある中、彼女たちの一部はアメリカに慰霊に訪れている。こういう変わり者がいてもよいのではないか、という言葉には頭が下がる。
 戦争を軍隊だけの武力戦と考えて、戦争や国防軍を語るべきではない。謀略、諜略、宣伝は国外ばかりでなく国内にも適用される。そのためにも「陸軍中野学校」や「陸軍登戸研究所」の実態を知るべきなのだ。







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