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評者◆砂川昌広(元・宮脇書店西淀川店、大阪府大阪市)
すべての本屋はつながっている――得地直美・絵/本屋図鑑編集部・文『本屋図鑑』(本体1700円・夏葉社)
No.3123 ・ 2013年08月17日




 7月19日、大阪で開催された「本屋図鑑刊行記念トークイベント」に参加した。私の勤める書店は6月に閉店し、私はもう書店員でないけれど、11年間働いていた思いを抱きながら、会場に着席した。イベントの主催者であり『本屋図鑑』でも紹介されている隆祥館書店の二村さんが挨拶の後、本書のまえがきを朗読した。「本屋は友人であり、家族である」という冒頭から、そのひとつひとつの言葉を聞きながら、私は職場として勤めていた書店だけでなく、自分が今まで通ったことのある様々な本屋のことを思いだしていた。
 『本屋図鑑』は本屋を愛する三人の手で作られた。ひとり出版社として活躍する夏葉社の島田潤一郎さんと、吉祥寺の書店員たちの集まり「吉っ読」のメンバーでありホームページ「空犬通信」などで書店情報を発信する編集者の空犬太郎さん、そして本のイラストを手掛けた得地直美さん。
 本書では四十七都道府県の本屋さんが様々な角度から紹介されている。文芸書や人文書はもちろん学参や実用書など棚に着目して取り上げたり、駅前の本屋、商店街の本屋、道路沿いの本屋、帰り道にある本屋など立地による違いから本屋を見るなど。どんな人が、どんな時間帯に訪れ、どんな棚を見て、どんな本を買っていくのか。そこに目を向けることで、町に息づく本屋の姿を知ることができる。得地さんのあたたかなイラストも大きな魅力だ。写真では写らない本屋の姿を見せてくれる。私たちが目にしている風景は写真に近いはずなのに、このイラストの力によって本屋との距離をとても身近に感じることができる。
 「随筆と評論が幾層にも織り交ぜられた四本の棚を見ていると、心から、本が好きでよかったと思えてくる。ああ、これこれ、佐藤さん、いい本ですよね、と言うと、いい本だよね、とレジから佐藤さんがこたえてくれる。」「点滴を打たれ、泣いていた子が、本を買ってもらい、泣きやむ。涙のあとが残るあどけない顔で、戦隊ものの絵本を広げ、「これは強いんだよ
」と書店員さんに教えてくれる。谷島屋聖隷浜松病院販売店の日常である。」「訪れたのは、月曜日だったが、お客さんが絶え間なくやってきていた。みんな、きっとうれしいのだろう。こんな辺鄙なところに本屋さんがあり、しかもそこに、他ではなかなか買えない本がたくさんあることが。筆者もすごくうれしかった。何度来ても、そのたびに、うれしいのだと思う。」
 印象的な箇所を引用した。棚の素晴らしさ、書店員の思い、町の風景、お客さんの様子。すべてに優しいまなざしが向けられている。本屋を愛するということは、その町もそこに来る人たちも愛することなのだと気づかされる。
 この本を本屋に立ち寄ったことのある全ての人に読んでほしい。そしてできることなら、読み終えたあとで、どこかの本屋の棚をぐるっと見回してほしい。管啓次郎著『本は読めないものだから心配するな』にこんな文章がある。「ただひとつ、確実にいえることがある。すべての書店は、互いにつながっているということだ。店の大きさ、場所、伝統、並べられた本の分野や価格、それらの本が書かれた言語、新刊か古書の違いすら、問う必要はない。」すべての本屋はつながっている。今ある本屋だけではなく、かつて通っていた本屋も、これから出あう本屋も。







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