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評者◆内堀弘
小室等さんのこと――七十年代、谷川俊太郎、吉増剛造らを歌うのを聴いた
No.3122 ・ 2013年08月10日




某月某日。夜、大泉学園の小さなライブハウスで「小室等・音楽人生を語る歌う~第八夜」があった。ちょっと仰々しいタイトルは、最初の頃は「七十年代を語る」となっていた。たしか第一回は、中津川フォークジャンボリーから四十年ということで、小室さんが当時の回想を交えながら歌った。「小室さん」と親しげに書くのは、懇意ということではなくて、私には特別な感慨があるからだ。
 1972年に、小室等ファーストアルバムが出た。私は高校生だった。なぜその発売を心待ちにしていたのかは思い出せないが、直前で発売禁止になると、私は高田馬場のムトウレコードに何度も通ってようやく手に入れた。
 当時はシンガーソングライター、つまり自分で詞を書き、曲も書くのが流行だった。だが、このアルバムには自身による詞がない。清岡卓行、吉増剛造、高橋睦郎、茨木のり子、大岡信、谷川俊太郎といった現代詩人の作品に曲をつけている。私は、この世に現代詩があることをここで知った。反戦や革命、ただの私や大好きな君を、自分の言葉で歌うフォークソングを、私は嫌いではなかったけれど、しかしそれは世界に屹立する言葉ではなかった。いや、そんな大袈裟なことを高校生の私が考えたとは思えない。でも、感ずるところはあったのだろう。それから大学に行き、そこを追い出され、神田の古本屋で働き、一九八〇年には古本屋をはじめた。そのとき詩書の古本屋を作ろうと思った。
 五反田の入札会に寄ると『週刊アンポ』が出ていた。ポップな表紙の絵に人気があり、今では美術館までがこれを蒐めている。時代は変わる。ぎりぎりに大泉学園に着いた。
 この夜、小室さんは『グリニッチヴィレッジの青春』(スージー・ロトロ・2010)を丁寧に読みながら、そこに出てくる音楽を、「じゃあ、これをちょっと聴いてみましょうよ」と持参のCDをかけて言った。私は、そのほとんどがはじめて聴くものだった。アメリカの古いフォークソングを、小室さんは浅草の街頭で歌われていた唖蝉坊たちの演歌と聴き比べ「なんか似てませんか」と言った。背伸びをすると、ディランの向こう側に浅草の街頭やエノケンの舞台が見える。そんな夜を過ごしていると、四十年前、背伸びをして垣間見た世界に、私はまだいるのだと思った。
(古書店主)







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