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評者◆伊達政保
フェスがワールド・ミュージック化していく――副島輝人著『日本フリージャズ史』『世界フリージャズ記』(ともに青土社)と相倉久人著『至高の日本ジャズ全史』(集英社新書)
No.3121 ・ 2013年08月03日




 昭和40年代、富樫雅彦カルテットから始まった日本のジャズ革命は、山下洋輔トリオらの活動によって、世界のジャズの最前衛に到達した。オイラ、中学高校時代、遠く仙台の地から東京のジャズ・シーンを知ることが出来たのは、ジャズ評論家油井正一氏や相倉久人氏などの評論と、生演奏の場を開拓するため地方のジャズ喫茶などをくまなく回り始めた渡辺貞夫クインテットの演奏活動、たまに上京した時(実家が東京のため)訪れる新宿ピット・インでのライブを聴くことによってだけだった。
 昭和44年、大学進学で上京。大学闘争の渦の真っ只中に巻き込まれる中、山下洋輔トリオの演奏を聴き、ブッ飛んでしまった。これまたジャズ評論家平岡正明氏の文章を知り、ジャズと暴力はかりに掛けりゃ背で吠えてる第三世界、という論調にシビレまくってしまったのだ。また政治の世界と同様ジャズの世界でも、前衛だ即興芸術だ、フリージャズだと論争が喧しく、政治世界の論調がそのまま持ち込まれる風でもあった。現在再評価されている間章など、当時は、黒田哲学と革マル的前衛論の融合にしか見えなかったし、今でもそう思う。ピット・イン・ニュージャズ・ホールで前衛ジャズのムーブメントを作り出そうとした、ジャズ評論家副島輝人氏の名を知ったのもその頃だった。
 11年前に出た副島氏の著書『日本フリージャズ史』(青土社)はそうした前後の日本のジャズ・シーンを描いた名著であり、昨年出された相倉久人著『至高の日本ジャズ全史』(集英社新書)と読み比べてみると興味深い。さて今年、副島輝人著『世界フリージャズ記』(青土社)が出た。著者はそのあとがきに「鮮烈な前衛ジャズを追い求めて、私は世界のフリージャズ祭を次々に尋ね歩いた。そして、その時々に書いたリポートをまとめたのが本書である。私のその旅は、一九七七年に始まった」と書いている。オイラはその頃から徐々に、ジャズに対する興味を失ってきた。ジャズがつまらなくなり、歌謡曲や河内音頭を含めた大衆音楽の方が面白くなってきたからだった。そして世界の大衆音楽(ワールド・ミュージック)の方へベクトルが向かっていく。後に、副島氏や渋さ知らズと共に、2年ごとにメールス・ジャズ祭を訪れることになろうとは思いも寄らなかった。
 本書の圧巻は毎年のメールス・ジャズ祭のリポートである。各々の演奏に対する批評ばかりでなく、それを取り巻く文化的動きも捉えている。フェスが徐々にワールド・ミュージック化していくところなど、メールスに行ってみて、そのことがよく分かったのだ。本書がオイラのジャズの空白期間を埋めてくれた。
(評論家)







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