書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆伊藤稔(紀伊國屋書店新宿本店、東京都新宿区)
私たちはまだ間に合うのではないか――川名紀美著『アルビノを生きる』(本体2200円・河出書房新社)
No.3121 ・ 2013年08月03日




 「アルビノ」ときいて私がまず最初に思い出すのは、アニメ「ガンバの冒険」の中で敵となる白イタチ、「ノロイ」である。「ガンバの冒険」は一九七五年から放送されたガンバを中心としたネズミの仲間たちが、先の「ノロイ」を倒すまでの物語である。「ノロイ」の体は他のイタチの三倍の大きさであり、毛は白く、眼も赤い。非常に残酷な悪役として描かれている。
 「アルビノ」は動物に起こる遺伝性の疾患で、例えば岩国の「シロヘビ」などがそれにあたる。その存在は聖なるものとして畏れられている。そして動物であるヒトにもそれは起こる。
 本書はアルビノの人々を追ったルポである。その中で気になるところがあった。自身もアルビノであり、それについて調べ、卒論を書いた矢吹康夫さんの話である。[一連の文献調査を通じて矢吹が実感したのはアルビノを「異形の者」として蔑視するか、聖なるものとしてあがめるかの違いはあっても、生身の人間としては社会から排除され続けた歴史と現実である]。
 その表現にドキリとさせられる。そうなのである。私たちはその存在に対して「おそれ」を抱いてきた。それが「恐れ」である場合は、見えないものとして封殺してきたかもしれない。あるいは実際にその者を見えなくするため、手にかけた歴史もあるだろう。一方「畏れ」であった場合はその聖性を主張し、「遠い存在」としてあがめたであろう。先の「ノロイ」が恐れと、畏れを具えた存在として、シロヘビが畏れを具えた存在としてあったように。もちろん人と動物は異なるし、フィクションとノンフィクションの違いもあるとお思いだろうが、この乱暴な喩をゆるしてほしい。とにかく私たちはその存在を遠ざけてきたのではないか。
 しかしアルビノは疾患なのである。紫外線に弱く、それを浴びると火傷をする。また眼の暗幕の役割をする部分の色素欠乏により光がまとまらず、弱視になる人がほとんどだ。つまり彼ら、彼女らには助けが必要だ。私たちは彼ら、彼女らに寄り添わなければならないのではないか。
 内田樹さんのブログの中でこんな話がある。[専門的知識があるというのは「目がいい」とか「鼻がきく」とか「力持ちである」とかと同じようなたぐいの能力です。「目がいい人」は遠くに見えるものを見えない人に教えて上げられるし、「鼻がきく人」は他の人が気づかないうちに火災の発生に気がついて避難指示ができるし、「力持ちの人」は非力な人のために重いものを持って上げられる。それと同じように、自分が持っている能力は、それを持ってない人のためにこそ優先的に用いるべきだと僕は考えています。「目がいい人」ばかりが集まって「どこまで遠くが見えるか」競うようなことをするより、「目が悪い人」のために遠くを見てあげることの方がずっとたいせつな仕事だ](ブログ「内田樹の研究室」【「14歳の子を持つ親たちへ」韓国語版への序文】二〇一三年一月二十四日)。
 私たちはまだ間に合うのではないか。専門的とまではいわないが、彼ら、彼女らの存在を知ることで、遠くに見えるものを教えて上げられるのではないか。そしてそのためにはまず彼ら、彼女らがどうやって生きてきたかを知らなければならないのではないか。そのために本書が果たす役割は非常に大きいのではないか。そして本書はそんなことを知りたいあなたのために、きっと本棚で蠢いている本のひとつなのだと思う。







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約