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評者◆ぽんきち
発想の豊かさこそ独創的な実験を産む
脳のなかの天使
V・S・ラマチャンドラン著、山下篤子訳
No.3120 ・ 2013年07月27日




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●選評
終始難しい言葉を用いずに、それでいて客観的な視点を失わず論理的に評がなされている点が印象的です。著者のかんたんなプロフィル、書籍の概要、前著書との比較、そこから見えてくる評価……という無駄のない構成に、正しく評を伝えようとするぽんきちさんのプロ意識と真摯さを感じました。
次選レビュアー:かもめ通信〈B・シュリンク著『夏の嘘』(新潮社)〉、nkjmゆう〈更科功著『化石の分子生物学――生命進化の謎を解く』(講談社現代新書)〉

 ロングセラー『脳のなかの幽霊』で知られるラマチャンドランの最新刊である。
 著者は科学者であり医師である。研究ばかりではなく、実際に患者と直接やりとりをして、豊富な臨床経験も持つ。そこがこの著者の大きな強みの一つだと思う。
 脳の働きは外からはわかりにくい。どのような刺激がどういった経緯で処理され、どのようなアウトプットがされるのか。肝心な部分はブラックボックスであり、判明している部分は多くはない。脳研究は、古来、事故や負傷などで脳の一部が損なわれた結果、その部分の機能が判明してきた面がある。本書で著者がブラックボックスを探る手掛かりとしているのは、疾患や異常な状態である。切断されたり麻痺したりしたはずの腕や脚がまだあるように感じる「幻肢」の現象は何を意味しているのか。自閉症児は自分と世界をどのように捉えているのか。脳卒中等で発話能力が損なわれた人は、他の人の話を聞いても理解できないのか、それとも自分で文章を構築する能力だけが損なわれているのか。そういったことの解析から、普段疑問にも思っていないような「あたりまえ」の機能の構造が浮かび上がってくる。見過ごしがちな「正常」の機能に裏側から光が当てられ、隠れた意味が現れてくる。著者は最新機器を駆使するというよりも、シンプルで手軽な実験を好む。得てしてこうした実験は、誰が見ても結果が一目瞭然であるという美点を持つ。
 著者の持つ豊かな考察力にも舌を巻く。共感覚とメタファーについての論考の項は特に興味深く読んだ。この発想の豊かさがあってこそ、機器にのみ頼るのではない独創的な実験が生まれるのだろう。
 共感覚やミラーニューロン、自閉症、言語の進化を経て、著者の考察は類人猿と人類の違いに及ぶ。われわれが「美」を感じるのはなぜなのか。われわれの内観はどのように進化してきたのか。新しい研究結果も盛り込みつつ、研究内容そのものだけでなく、読者の想像力を刺激する多くの示唆に満ちている。
 本書は、一般読者にとって読みやすい「単純化」と専門家の気難しい目にも耐える「正確さ」を両立させることを目指していると、前書きで著者が述べている。「読みやすい本」イコール「レベルが低い本」ではない。その好例がここにある。個人的には『脳のなかの幽霊』の衝撃にはやや及ばない印象を受けたが、多くの人にとって刺激的な楽しい読書となることだろう。







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