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評者◆小嵐九八郎
歴史と文学の双生児性――講談社文芸文庫編『追悼の文学史』(本体一五〇〇円・講談社文芸文庫)
No.3120 ・ 2013年07月27日




 老いた当方の記憶違いか、十数年ほど前に「高校の授業から文学史が消える」という新聞記事を読んだ気がする。そういえば、アルバイト先の私大の講座の四月第一回目は、『斜陽』、『刺青』、『蟹工船』などの出だし、さわり、ENDのコピーを読んでもらい、小説の作者とタイトルを学生に当てさせるけれど、年年、正解率は下がるばかりだ。
 そもそも、詩歌、戯曲、小説は政治や経済の歴史の教科書以上に時代を映すし、時代時代の人の心情を解らせてくれる。『万葉集』で天皇を巡る血肉の争いに巻き込まれ負けてしまう心、西鶴の『好色一代女』で江戸時代でも大坂の雰囲気、漱石の『三四郎』で脱亜入欧の頃の帝大生の気分、葉山嘉樹の『淫売婦』で戦前の底辺の人人の喘ぎが解る。
 こういう今の今、60年代安保以降に死んだ大作家の死に、どう、きりりとした作家が追悼の文を記したのかの文庫本が出た。当たり前、死者への過ぎた餞もあれば、死んだから言ってしまえとばかりの悪口も出てくる。佐藤春夫、高見順、広津和郎、三島由紀夫、志賀直哉、川端康成への追悼で成り立ち、戦争中、敗戦後をどう過ごし、何を目標に書いたのかが、子弟関係、ライバル関係、傍の目から分かる。つまり、小説最盛期の歴史そのものが。
 このごーんと迫り、リアルで、切実な文庫は、なんと税別1500円と高い。が、九八郎がそれに値打ちとすると確と保証する。『追悼の文学史』(講談社文芸文庫)だ。
 三島由紀夫の割腹に対し、船橋聖一が「政治は人間の衣裳」として「政治衣裳を剥ぎ取った三島君の精神の裸体を愛して行きたい」と書いている。川端康成のガス管を咥えての死に、浄土真宗に深く“情痴”作家とも言われていた丹羽文雄は、睡眠薬中毒による「むやみやたらと死にたくなる死」と推理している。日本共産党潰しの策と考えられる松川事件を足とペンで無罪へと導いた、俺の畏怖する広津和郎の“女”についても丹羽文雄は書いていて、おいっ。死後も文豪たらん助兵衛根性を抱いている大作家はもちろん、青少年は歴史と文学の双生児性を学ぶべきか。
(作家・歌人)







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