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評者◆内堀弘
北の古本屋──『札幌古書組合八十年史』が面白い
No.3118 ・ 2013年07月13日




某月某日。『札幌古書組合八十年史』(2013年)を読んだ。本当に面白かった。通史と各世代の座談会が三つ、それに詳細な年表が加わって四百頁にわたる。私は古本屋だから、社史や何十年史と名のつくものはずいぶん見てきた。出版社の社史はそれ自体が文学史の資料のようだし、作家や編集者が多く通う酒場の記念誌にも興味はそそられる。しかし、書物の周りの市井の記録は少ない。
 この本はそんな一冊だ。北の街で古本屋をはじめ、同業者の古本市場(交換会)を作り、学ぶことを怠らない、そんな日々が淡々と記録されている。
 たとえば、昭和六十年。幌北会館で初市を開く。出来高は一〇六万円。すこぶる好調とある。三月、帯広で釧路古書組合主催の入札会(この頃の釧路、帯広の古本屋の活気を知る)。四月、古書ブランメルが新規加入。若い店主が洒落た店を作って話題になる(だが翌年火災で全焼)。五月、小樽の文屋書店が店じまい。その在庫の売り立てに梶井基次郎の『檸檬』の初版があった。サッポロ堂石原誠の担当で「札幌古書組合連絡版」をガリ版刷りで発行。地方にも郵送した。納涼入札会を開催。昼には千二百円の三段弁当を出した。特別ではない日々は面白いし、何よりも愛おしい。
 ガリ版刷りの通信を見て、私も札幌の夏の入札会に出かけた。駆け出しで、一人の知り合いもいなかった。その若造を「よく来た」と石原さんが万事面倒を見てくれた。豪華な弁当を遠慮していたら、まだ学生のような若い人が私の席を作って、お茶まで入れてくれた。その高木君が、いま札幌古書組合の理事長で『八十年史』の刊行人になっている。
 巻末には新人古本屋の座談会もある。古本屋がネット化されていくなかで「自分もコンピューターの一部になったような気がする」という感想から、セレクトされた本の話に進む。ここは、真っ直ぐであることを疎外しない。今も昔もだ。
 ベテランの座談会に愉快な逸話があった。昭和二十年代の札幌で、繁盛店がいかに売れていたかという喩えに「(その店は)三時のおやつにメロン食べていた」という。司会が「それはわかりやすい話で(笑)」と引き取るのが、また可笑しかった。
(古書店主)







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