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評者◆殿島三紀
禁酒法は天下の悪法──監督 ジョン・ヒルコート『欲望のバージニア』
No.3117 ・ 2013年07月06日




 6月公開の映画として『ローマでアモーレ』『インポッシブル』『嘆きのピエタ』『欲望のバージニア』他を観た。
 『ローマでアモーレ』、ウディ・アレン監督最新作。ローマを舞台にした4つのエピソードで構成されている。前作『ミッドナイト・イン・パリ』がよかっただけに、今回はちょっと残念か。だが、さすがウディ監督、映画界の重鎮だけあってキャストは大物揃い。相変わらずのご本人の登場は勘弁してほしいが。
 『インポッシブル』。『永遠のこどもたち』でデビューしたJ・A・バヨナ監督作品。タイ滞在中、スマトラ沖大地震による津波に遭遇し、家族5人が奇跡的に生還した実話を映画化したもの。私たちにとってはまだまだ現在形の話なので、迫真の津波シーンはつらい。
 『嘆きのピエタ』、キム・ギドク監督・脚本。天涯孤独な借金取りの許に母親と名乗る女が現れて。ギドク監督、3年の沈黙を破った劇映画監督復帰第一作。
 今回ご紹介するのは『欲望のバージニア』。なんとなくエッチっぽいタイトルだが、原題は“Lawless ”。ジョン・ヒルコート監督作品。禁酒法時代に密造酒をつくっていたボンデュラント兄弟を描いた実話だ。この兄弟、バージニア州を舞台に密造酒ビジネスで大儲けした実在の人物でレジェンドともいうべき存在。地元にはボンデュラント・ミュージアムまであり、人々は兄弟に憧れ、同じタトゥーを入れ、撮影中も覗きにきてはファッションやストーリーにまで口をはさんだのだとか。そして、本作の原作がまた三兄弟の末っ子ジャックの実孫マット・ボンデュラントの小説“The Wettest County in the World ”(世界で最も濡れた郡)だというよくできたお膳立てだ。ウェット・カウンティとは禁酒郡(ドライ・カウンティ)の反対語で文字通りジャブジャブと酒を造っていた郡。つまり本作の舞台であるバージニア州フランクリン郡のこと。
 禁酒法は1920年1月16日にアメリカ合衆国憲法修正第18条下において施行され、消費のための酒類の製造、販売、輸送、輸出入を禁止した法律だが、飲酒自体は禁じられていなかった。飲む人がいるなら造らなきゃ損。密造業者と酒呑みたちの間に入ってギャングが暗躍するのも納得。という次第で、禁酒法時代を描いた映画は数多いが、どれもシカゴやNY等大都会でのギャングを描いたもの。ところが、本作は緑濃いバージニアの田舎町が舞台。マッチョな兄貴たちとなんとか男になりたい末っ子。不死身とよばれた三兄弟が極悪非道な密造酒取締官に抗して義理と人情をかけて闘った実話に基づく話である。酒を造るのが悪いのか、それとも呑むのが悪いのか。法を破るのが悪いのか、それとも取り締まるほうが悪いのか。そもそも禁酒法が天下の悪法だったのではないか。だが、事の善悪はさておいて、敵と味方がはっきりしないことには成り立たないのが映画のお約束。今回、対決するのは密造酒製造グループとそれを取り締まる側である。主人公が密造グループだから、敵役は取締官。いかにも敵役らしい風貌の取締官を一目見れば、どうしたって法を破る側に肩入れしたくなる。田舎道を馬車のような車が砂埃を巻き上げて走り、銃撃戦もあれば、殴り合いも。のどをかき切られても、ボコボコに殴られても、不死鳥のように蘇るボンデュラント兄弟。これはもう馬が車に変わっただけでほとんど西部劇(映画の舞台のバージニア州は東部だが)。禁酒法時代の映画といったら大都会という先入見を裏切った静かな田舎町で繰り広げられる不死身の三兄弟と悪代官、いや、悪徳取締官との壮絶な対決。欲が絡めば都会でも田舎町でも血で血を洗う争いになるということか。などと、伝説化している兄弟にあえて水をさす必要もないけれど。
(フリーライター)
※『欲望のバージニア』は、6月29日(土)より丸の内TOEI、新宿バルト9ほか全国順次ロードショー。







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