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評者◆秋竜山
大爆笑は突然やってくる、の巻
No.3117 ・ 2013年07月06日




 「ダイナマイトは爆発だ」と、いって、爆発させたのがノーベル。「芸術は爆発だ」と流行語にさせたのが岡本太郎。そして、「パロディは爆笑だ」を見せつけたのが一夜にして世界的パロディ画家となった無名の老女であった。爆発、そして爆笑、ヒトはなぜによろこぶのか。宮下規久朗『〈オールカラー版〉欲望の美術史』(光文社新書、本体九二〇円)では、〈名画への敬意と反発〉という項目の中で、このパロディ画を取り上げている。パロディとは何か〓 考えさせられもする。絵画芸術の中で世界中をこれほど爆笑させたものは他にあるまい。かつて、仲間の漫画家たちと酒を飲みながら「漫画は爆笑だ」なんて言いあったもんだった。しかし、「パロディは爆笑だ」には、してやられたものだ。
 〈二〇一二年、スペインのボルハという町で、教会の壁に描かれていたキリストの絵を、信者のセシリア・ヒメネスという老女が善意で修復したところ、原画と似ても似つかぬ絵になったことが大きな話題になった。〉(本書より)
 どんな絵になってしまったのだろうか。これは、一つの事件でもあった。爆笑事件といってもよいだろう。テレビで映し出された、そのキリスト像の修復前と修復後の画に、世界中が大爆笑させられたのであった。大爆笑は突然やってくる。今までテレビを観ても一度も笑ったことのないヒトが、顔をグシャグシャにさせて大爆笑したとかしなかったとか。
 〈修復後のキリストは猿のように滑稽な顔になってしまい、教会を管理する市の当局や画家の遺族などがこの老女の行為を非難したが、意外なことにネット上で大人気を博して見学者が殺到し、「世界最悪の修復画」として保存を求める署名まで集まったという。何の変哲もない小さな町ボルハには、この絵を一目見ようと観光客が押し寄せた。〉(本書より)
 これには修復前と修復後のキリスト像が一番驚いただろう。笑いごとではない〓 と、いったとかいわなかったとか。世界最悪というレッテルにヒトはよろこぶものである。どーだろうか。町おこしに「世界最悪爆笑パロディ芸術館」なるものを開館させたら。うけると思うねえ。失敗は成功のもと、とはよくいったものである。
 〈修復の失敗というより、原画に対する一種のパロディと受け取られてしまったようである。〉(本書より)
 これには、信者のセシリア・ヒメネスという老女は、「冗談じゃァない」と、叫んだとか叫ばなかったとか。「私はまじめに修復したのです。それに、皆さんは猿の顔のようになってしまったと笑っているようだが、私には猿の顔とはみえません。修復前のりっぱなキリスト像にみえます。」と、いったとか、いわなかったとか。誰がみても修復されたのは猿の顔に変わっていた。
 〈描いた老女は熱心な信者であり、大真面目であったことも、さらなる笑いを誘った。〉(本書より)
 笑いとはクソ真面目な行為の中にうまれるものである。なにが驚いたかというと、原画に上書きして猿の画を描いてしまったということだ。それにしても、こんな顔にされてしまったキリスト像はこの事件をどうとらえたらよいのか。大爆笑しているキリスト像もステキかもしれない。







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