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評者◆chiezo
ヒネリなんて全く必要ないハートウォーミングストーリー
ハルさん
藤野恵美
No.3116 ・ 2013年06月29日




 妻を亡くし、男手ひとつで娘を育ててきた。そして今日、花嫁の父となるシングルダディの成長記。
 「この僕が『花嫁の父』になるなんて……」亡き妻に語りかける男・長谷川晴彦、通称ハルさん。男手ひとつで育て上げた娘を嫁に出す父親ハルさんは娘・風里(愛称・ふうちゃん)の成長と過ごしてきた日々を思い出していた。
 ハルさんは人形作家。ふうちゃんが生まれて間もなく妻の瑠璃子さんを亡くしていた。ハルさんは自宅で仕事をしながら、ふうちゃんの面倒をみるシングルダディ。父と娘、二人暮らしの慎ましやかな日常に起こる小さな事件や問題を亡き妻の助言に助けられながら父娘で乗り越えてきた。
 パパと幼女が登場すりゃ、大概は娘の成長記録的な可愛らしさに重点が置かれるのは当然。でも本作は、どっちかっつーとシングルダディであるハルさんの成長記録なのだ。保育園のママたちに少しずつ溶け込んでいくハルさん。子供の行動に注意喚起を促す小学校のプリントにハラハラするハルさん。ふうちゃんの突拍子も無い行動にオロオロするハルさん。次第にひとりの食卓が増えてくハルさん。もうハルさん、かわいいーーっ!! ハルさんは繊細で優しい男。亡き妻・瑠璃子さんとは学生結婚。どうも瑠璃子さんの方が行動的な女性だったようだ。そして、娘のふうちゃんは優しさとアグレッシブさを受け継いでいる(笑)。
 保育園のお友達の卵焼きが無くなったと探偵になるふうちゃん。ハルさんが言った一言に共感して一人旅を決行する小学生のふうちゃん。中学生になった途端ハルさんを「お父さん」と呼びだしたふうちゃん。アルバイトをしながら大学進学に悩む高校生のふうちゃん。なんてイイ娘なんだっ!!
 そして、ふうちゃんの結婚相手が結婚式で語ったスピーチにハルさんはもちろん、列席者一同(読者含む)むせび泣く。特に幼児期を追体験してきた読者は鼻水垂れるぞっ! 結婚式でのハルさんの傍らには、黒留袖を着た瑠璃子さんがハルさんを誇らしげに眺めながら微笑んでいる姿が目に浮かぶし。
 成長物語に日常の些細な問題がミステリー仕立てになっている。父と娘の成長記録から、娘の結婚へと感涙物語の王道を行く設定に、もうヒネリなんて全く必要ないハートウォーミングストーリー。

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●選評
大団円に向かって、物語の構造をなぞるように粗筋を紹介している点が面白いです。父娘のそれぞれ微笑ましいエピソードを丹念に紹介することで、実際に本書のラストを読んだ時に訪れるであろう感動の疑似体験をさせてくれました。飾らない素朴な感想を交えた語り口にも読まされました。
次選レビュアー:kurara〈『やせれば美人』(新潮社)〉、ぽんきち〈『サボリ上手な動物たち』(岩波科学ライブラリー)〉







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