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評者◆伊達政保
霧社事件を克明に描いた圧倒的な映画──ウェイ・ダーション監督『セデック・バレ』の力強さ
No.3116 ・ 2013年06月29日




 映画館で旧友の映画カメラマン長田勇市君に偶然出会った。上映終了後、こんな力強い映画はもう日本では撮れないな、と意見が一致した。その映画はウェイ・ダーション(魏徳聖)監督『セデック・バレ』だ。第一部「太陽旗」、第二部「虹の橋」合わせてなんと4時間36分の大作である。昭和5年(1930年)台湾で起きた「霧社事件」、別称「モーナ・ルダオの反乱」を克明に描いた圧倒的とも言える作品だ。台湾植民地原住民の最後の組織的蜂起として知られるこの事件。反植民地主義という文脈で語られることが多いが、この映画は原住民と植民者の「文化衝突」を前面に押し出している。また、近代化で失われんとする文化と、近代文化との対立をも描いている。そしてそれは日本近現代史が封印した、台湾原住民との関係を浮上させるものでもあったのだ。
 「生蕃」と呼ばれた台湾高地狩猟民族の原住民、多数の部族に分かれ、部族間の戦いで「首刈り(出草と言う)」の風習を持つ。明治4年(1871年)、琉球島民が台湾へ漂着、50数名が原住民に斬首される(牡丹社事件)。明治7年、台湾出兵により牡丹社制圧。明治28年、下関条約により台湾割譲。日本軍上陸と平定戦争で北白川宮(奥羽越列藩同盟の盟主東武帝)戦死。明治39年、霧社蕃帰順。何と完全平定まで11年もかかったのだ。また生蕃を高砂族と呼称する。その24年後に霧社事件が起こるのだ。
 日本教育を受け近代文化を学びその文化に抑圧されながらも、自らの文化を守ろうとして生きるセデック族。モーナの長男の結婚式を日本人警官に侮辱されたことから、民族の誇りを守るため、負ける戦いと知りながら、敵の首を刈ることにより清められ、死して虹の橋を渡り永遠の狩場に行く、という民族信仰により蜂起。小学校の運動会を襲撃し老若男女を問わず日本人の首を刈る。このことを現在の日本人は残酷だと目を背けるが、オイラに言わせりゃ百年前(この事件から五十年前)まで日本人も首刈り民族だったのだ。戊辰戦争や西南戦争の真実を見よ。いや支那事変まで首刈り文化があったのだ。さてセデック族は日本軍の銃弾薬を奪い近代山岳ゲリラ戦を展開、翻弄された日本軍は大砲、戦闘機、毒ガスまで使用して鎮圧。この一年後に満州事変が勃発。後に、原住民の戦闘能力に着目して高砂義勇軍が結成され、南方戦線に投入、戦果を挙げるも多数が戦死、靖国神社に奉られた。
 この映画、台湾原住民を題材にしたNDUのドキュメンタリー映画『アジアはひとつ』とその続編『出草之歌・台湾原住民の吶喊・背山一戦』から結構影響を受けているように、オイラには思えるのだが。
(評論家)







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