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評者◆トミヤマユキコ
いつの日か『ジェーン・スー大全集』が出版されますように……。
No.3115 ・ 2013年06月22日




 ジェーン・スーという人は、アイドルグループのために作詞をしたり、ラジオでお喋りしたり、化粧品のプロデュースをしたりと、非常にマルチな活動をしています。名前からすると外国人のようだけれど、日本生まれの日本育ち。かつて多くの人が、リリー・フランキーを「え? 外国人?」と思っていた時代がありましたが、ジェーン・スーも、いまでこそ国籍不詳なれど、いつかは「あ! あの人ね!」てな具合に説明不要の大人物となる日がやって来る。そう信じて疑わないわたしです。

 なぜなら! 彼女の発することばには〓 中毒性があるから!!!

 特に、女の生きざまについて語る時の魅力たるや……! ただし、彼女のことばはキラリと美しく光ってわたしたちを惹きつけますが、うっかり近づけば時に怪我することもあるので注意が必要です。というよりもむしろ怪我しかしない。彼女のことばは、わたしたちの心にグサグサ刺さりますし、流血も不可避。試みに、いくつかご紹介しましょう。

 最近のブログ(「ジェーン・スーは日本人です。」)のエントリは「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」。30歳を過ぎた女たちが「女子」を自称する「ずうずうしさや主張」そして「周囲の人間がそれを不意に受け取ったときのドキッとする感じや不快さ」をジェーン・スーは、このように言い換えます……「近いのは刺青だな」。

 さらに彼女は続けます。「私たちは〓女子〓という墨を体に入れていると想定します。見せる相手や場所を限定すれば、その刺青は自分を表す大事なファクターになりますが、TPOをわきまえずにひけらかすと、周囲に不協和音を生む。〓アピールしてるわけじゃなくて自然に~これファッションタトゥーだしぃ〓という方、いらっしゃいますけれども、貴様の自然と世間の自然にズレがあることもございますのよ」。

 けだし名言! 刺青自体は悪くないし、三十路が女子を名乗るのも悪くない。けれどTPOを考えろ、それが大人というものだろう。ジェーン先生はそのように仰っている。まったくもってその通りですし、わたしはいま「女子って言っちゃいけないんなら、もう女子トイレとか入れないじゃん! ババアトイレ作れや!」と酒場で叫んだ自分を思い出して死にたくなっています。酔っていたとはいえ、底の浅い屁理屈を垂れ流した自分が恥ずかしい。まさにTPOを無視した刺青見せまくり状態です。というか、本連載のタイトルに「女子」の2文字が入っていること、「女子」として紹介されることをジェーン先生はどうお考えになるのでしょうか。斬られる覚悟はできております(むしろ本望)。

 ラジオ出演時のお言葉もご紹介しておきましょう。アラサー以上の女の寝起きを、ジェーン先生は犯罪者が逮捕直後に撮られる写真「マグショット」にたとえた上で、化粧することによって自分を「見れる」状態に仕立て上げることの重要性について説いています。そして、化粧をして外の世界に出て行くことを、「毎朝、自分を釈放してるんですよ」と表現するのです。「マグショット」から「釈放」までの流れ、一切の澱みなし。たしかにノーメイクのまま外出した日のローテンションは、マグショット面のまま社会に出て行ってるからだわ……仮出所だからだわ……。

 刺青を背負ったり、仮出所したり、なんだか大変な言われようですが、ことばの刃で負傷し、道に倒れたわたしたちは、それでもなおジェーン・スーの名を呼び続け、切れ味バツグンのことばを求め続けることになる(断言)。そこには、真実があると思えるから。ただいたずらに傷つけられているのではないのだと分かる優しさがあるから。この中毒性、この傷つきながらも力づけられる感じはクセになる。だからお願い、ジェーン・スーの金科玉条を本にまとめて、年一ペースで売り出してはくれないか。そうすれば、わたしたちはきっと、強く強く生きていけるから……。

 2011年、雨宮まみが『女子をこじらせて』という名著を世に放って以降、女たちは「こじらせ」というキーワードの下に集まり、結束し、声を上げはじめました。久保ミツロウ、能町みね子、峰なゆか、犬山紙子……などの自意識こじらせ系論客が、自意識を持て余したまま生きていくことについて語るたび、喜びと悲しみの間で引き裂かれた市井の女たちが大勢いました。なぜ引き裂かれるのか? それは、自分が自意識を「こじらせている」と分かってスッキリした反面、そんな自分をどうコントロールして生きていけばよいのか、よく分からないから。「正解などない、一緒に悩みながら生きて行こう」。苦境を乗り越えたフリ、解脱成功者のフリをしないこじらせ系論客たちは、いまだに地べたを這いつくばっているように見えますし、自身のこじらせぶりをごまかさない誠実さこそ、彼女たちが多くの支持を集める最大の理由であると、わたしは考えます。

 しかし、これら論客のほとんどが30代であるのと違って、ジェーン・スーは40代に突入しています。みんなと一緒になって地べたを這いつくばる年齢じゃない。立ち上がり、土を払って、とりあえずそこら辺のベンチには座れている感じです。ジェーン先生は至近距離から、20~30代女性の自意識どろんこ祭りを見ているのです。それはまるで部活を引退したばかりの先輩みたいな親近感。雨宮まみ部長率いるこじらせ部を存続させるためにも、やはり引き継ぎ書類、つまりジェーン・スーの金言集がリリースされることを願ってやみません。
(ライター・早稲田大学非常勤講師)

▲【じぇーん・すー】作詞家、音楽プロデューサー、ラジオパーソナリティ、コラムニストなど肩書き多数。1973年、東京都生まれ。ラジオ番組へのゲスト出演時に語った化粧論や女子論が話題となり、メディア露出が一気に増える。「ORDINARY FRIDAY~つまりシケた金曜日~」(ソラトニワFM)パーソナリティ。







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