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評者◆阿木津 英
自動作成短歌から短歌までの距離──本ものの力ある言葉を見分けるのは誰か?
No.3115 ・ 2013年06月22日




 本稿に着手しようとしていた矢先、届いた本紙6月15日号第一面の赤い大活字「言葉の堕落」が目を打った。副題の「フェイクが本物とみなされる倒錯が起きている、日本の現実」と共に。対象書物を読まずに言うのは気がひけるが、その言葉の断片が、短歌という言葉の世界の住人であるわたしの深部に響いた。そういうことなのだ、と。
 ことに3・11以後、あらゆる場面で根源を問い直さなければならなくなっている。政治家が政治家であり、経済学者が経済学者であり、詩人が詩人であるとは、そして、人間が人間であるとはどういうことか。
 ネット上には短歌自動作成装置なるものがすでにいくつもあるということを、三宅雄介「アンドロイドは電気短歌の夢を見るか」(『短歌往来』6月号)で知った。さっそく検索する。いちばん歌らしいのが「星野しずる」というキャラクターを設定したサイトで、各所で紹介されてもいるようだ。三宅評論中より一首引用すると〈ぺらぺらの残りわずかな影になれ 給水塔は死んでしまった〉。
 何だか若者の口語短歌を読んでいるような気がするが、それもそのはずで、入力データベースがそこらあたりなのだ。非常に少ない語彙数でこれくらいできる。
 語彙数は増やせるだろう。文語文法も投入できるだろう。高齢者用などもできそうだが、しかし、そこから無数にできあがる歌の、これがいいと価値判別するのは人間である。その判別力をどこで養うのか?養ったりしなくていいのか?市場が決めてくれるのか?
 キャラクター(星野しずる)は、サイトを見ればお遊びだとわかるが、問題はこの自動作成歌が限りなく短歌の現状に近接していること。何が本もので何が「フェイク」なのか、力ある言葉とはどのようなものなのか、わからなくなってしまった現状がある。
 冒頭にあげた本紙記事佐々木実発言に倣って言えば、芸術倫理を守ろうとする知のあり方、身体化した知のあり方、そういうものだけが、本ものの力ある詩の言葉を生み出し、価値に対する判別力を養い、それを成長せしめてゆくだろう。
(歌人)







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