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評者◆秋竜山
ひとりごとの毎日、の巻
No.3114 ・ 2013年06月15日




 思い出したようなアンケートとして、「無人島へ一冊の本を持っていくとしたら、あなたは……」。それぞれお気に入りの一冊の本をあげる。「一冊の本より一切れのパンです」なんて、トンチンカンな答えがあったりする。私がもっとも面白いと思うのは、人間の空想力というか、知的想像力である。まず、頭の中に人それぞれの無人島を描くことができるということ。ロビンソン・クルーソのいる無人島もあれば、近くの誰も住んでいない島だったり。無人島マンガの、あの無人島だったり。そこへ自分が一冊の本を持っていくということを空想できるという素晴らしさである。ところが、こんなこともあったりする。「無人島マンガって、どんなマンガですか?」と、反対に聞きかえされたりするからだ。そんな時は、マンガの説明などするが、相手はわかったようなわからんような顔をして聞いてはくれるけど、心もとない。そんなマンガ見たことない!! と、いうのが世の中だろうねえ。地球は大きい。無人島マンガの無人島は小さい。なにしろ人間一人乗っかるほどの島にヤシの木一本というパターン化された島である。現実にはそんな島などあるわけもなく、あくまでもマンガによる空想上の島である。万国共通の有名なマンガであるにもかかわらず本で見る機会がないのかもしれない。石黒圭『日本語は「空気」が決める――社会言語学入門』(光文社新書、本体八四〇円)では、日本語における的確な空気について、社会言語学の生きた日本語の、その空気にふれている。ハテ、マンガの無人島においても、そこには現実とはまったく異なったマンガ的な空気が流れているのか。漫画学というのがあるらしいから研究してみると面白いかもしれない。本書に〈言語の死――二五〇〇の言語が危機にある〉というコーナーがある。
 〈言語の死(language death)あるいは言語の消滅(language extinction)という語があります。言語の死は、その言葉を日常的に話す最後の人が亡くなった瞬間に訪れます。そして、現代は、この言語の死が世界各地で訪れている時代です。〉(本書より)
 そして、
 〈海外に移住した日本人家族が、一世は日本語を自由に使いこなせるものの、二世はその日本語がやや怪しくなり、三世がほとんど話せなくなるのに似ています。(略)このように、個人がある言語の能力を失うことを、言語の喪失(language loss)と言いますが、言語の喪失がある言語共同体のなかで同時に進行すると、最終的に言語の死を迎えることになるのです。〉(本書より)
 そして、本書に〈言語の再生――言葉は一人では残せない〉というコーナーがある。無人島マンガではひとりぐらしの身である。まず、ひとりということは話し相手がいないということだ。沖のカモメに話しかけても、海の中の魚に話しかけても言葉はかえってこない。ひとりごとの毎日である。ひとりごとは会話にならない。一人二役、一人三役、たんなる観客のいない一人芝居である。このような場合、やっぱり言葉は一人では残せないということだ。そして、誰もいなくなり持っていった一冊の本が残り、風でパラパラとページがめくられていたりする。『日本語は「空気」が決める』という本書であったりして。そんな光景もわるくない。







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