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評者◆小嵐九八郎
詩の怖さ、歌の凄さ ──『岡井隆詩集』(本体一一六五円・思潮社)、『岡井隆歌集』(本体一二〇〇円・思潮社)
No.3114 ・ 2013年06月15日




 酔っぱらうと「♪軍律きびしき中なれどオ」と恥ずかしげもなく軍歌を一人で歌う。天皇の軍隊といえども末端の兵士の絆や呻きが聞こえる気がしてしまうからか。詩は、怖い。
 酒を飲まずとも、弟橘媛の「さねさし相武の小野に燃ゆる火の火中に立ちて問いし君はも」には吐息をつく。歌は、凄い。
 もっとも、小林多喜二の『蟹工船』の荒々しい反逆の小説は幾度読んでも望みを抱かせてくれるし、土着語の叩く響きに圧倒されるわけで、詩歌だけが人の何かを麻痺させるわけではなかろう──はず、かも。
 思潮社の「現代詩文庫200」を手に取った。最初の1冊目は亡き田村隆一だったという。三崎書房のもそうだが學藝書林での全11巻『我が秘密の生涯』を訳した人である。『資本論』より、19世紀の風俗、モラルが分かる作者不詳の濃密なる性愛告白の文書がこれである。
 だったら、いや、それ以前に『勝手にしやがれ』などを作詩した阿久悠、小説よりも作詩の方がなんて記してはいけない『石狩挽歌』のなかにし礼も入れたら真っ当なのにね。
 その200冊目が『岡井隆詩集』(1165円+税)である。短歌のみならず、論、小説と無尽に走る岡井隆氏であるが、詩や、詩それ自身の分析の詩、革命的左翼の記憶と批判の詩、死論の詩と奔放なのである。俺みたいな単純詩歌愛好者にも解る『童謡』(わざうた、と読ませるらしい)のタイトルの詩など、「──つくえにえんぴつ/ほほにつゑつき/けしてはかいて」ときて終わりは「あしたはきのふ/たれがやめても/かんさうはない」と虚無というより死生一条にいくみたいな、子供にも死学として読ませた方が良いものもある。
 同時に発売されたのが、「現代詩文庫」シリーズで『岡井隆歌集』(1200円+税)だ。もっと短歌の器を拡げようとする人、上手になろうと色気を持つ人には『斉唱』、『朝狩』の初期から現代まで入っているので得な文庫だ。若い時は韻律の社会性を含めて激しく罵り合った吉本隆明の死の前の評論もあり、これがまた……。そういえば、御二方は。
(作家・歌人)







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