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評者◆伊達政保
東宝争議の背景から黒澤映画や反戦反核映画『ゴジラ』が生まれた──指田文夫著『黒澤明の十字架――戦争と円谷特撮と徴兵忌避』(本体一九〇〇円・現代企画室)
No.3112 ・ 2013年06月01日




 まず最初に目に飛び込んで来たのは、本書表紙の見返しにある「戦後期の東宝・新東宝周辺図」だった。そうなのだ東京都世田谷区砧地区、この地域的背景も重要な意味を持つのだ。
 オイラが住む団地の窓の正面から、昭和21年「産別10月闘争」で、日本映画演劇労働組合としてストライキにより労働協約を勝ち取った第二次東宝争議と同時期、新聞通信放送労働組合として停波ストに突入し、20日間ラジオ放送を止めた技術職組合員の拠点NHK放送技術研究所が見える。オイラの親父も、その時の技術屋の活動家だったことを、ずいぶん後になって当時の読売新聞労組幹部だった増山太助氏から聞いた。親父は生前、組合活動について殆ど語らなかったが、NHK技研での出来事については聞いた記憶がある。その右手には東京メディアシティ(元・新東宝、国際放映)、その右奥には東宝撮影所が見える。大学卒業後、最初の勤務が世田谷区砧出張所だったので、この地域には映画製作の都合から、戦前から俳優や撮影所関係者が多く住んでおり、労働争議も地域ぐるみで闘われていたことを知った。昭和23年の「軍艦だけが来なかった」と言われる組合弾圧があった、第三次東宝争議から25年後のことだ。そうそう、しばらく前まで団地の近所には円谷プロダクションもあったっけ。
 この本、指田文夫著『黒澤明の十字架‐‐戦争と円谷特撮と徴兵忌避』(現代企画室)は、黒澤明の戦中、戦後の実体験に基づくことにより展開された、黒澤映画の作品論である。本書によって、戦時の軍事産業としての東宝映画、そして航空教育資料製作所作成の軍事マニュアル映画によって生み出された円谷特撮技術、戦後民主化闘争と一体となった労働組合運動と組合の分裂、第二組合を中心とした新東宝の設立、そうした背景から黒澤映画や反戦反核映画としての『ゴジラ』が生まれていったことを、よく理解出来るのだ。
 本書のサブタイトルにもある「徴兵忌避」。黒澤明はその年齢、体格から考えても不思議なことだが一度も徴兵されてはいない。同時代の監督、俳優を含めた映画関係者は殆ど徴兵され兵役に就いているのだが、黒澤監督にはそれがない。戦争に行かなかった負い目と、戦争賛美の映画を製作したという戦争責任、そして戦後労働運動の象徴とも言われた東宝労働争議が、戦後一連の黒澤映画に影を落としているという。多くの資料を駆使して本書はそれらを明らかにしていく。確かになるほどと納得させられるが、著者による黒澤の徴兵忌避という推測が、それらの論拠となっている点を考慮する必要もある。だからといって本書の価値が減じるわけではない。
(評論家)







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