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評者◆前大用裕
「戦後日本」の最大の闇に真実の眼──日米地位協定という名のパンドラの箱 【web限定公開記事】
本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」
前泊博盛 編著
No.3111 ・ 2013年05月25日




 日米は、戦後も対等な関係であったのか。問われて、対等であったと答える人は少ない。答えは日米地位協定に凝集されている。「戦後日本」の最大の闇に迫り、真実の眼をあてた一書である。
 沖縄で記者を長年経験した著者は、地位協定に隠された不可解な構造を見抜いていた。超過密基地・沖縄で予期した事件が起きた。それは、普天間飛行場から飛び立った1機のヘリコプターが隣接する某大学構内に墜落した。幸いに惨事にならず、ケガ人も出なかった。
 その現場を仕切ったのは米軍であった。機体の回収のために警察を排除し、周囲を封鎖した。
 治外法権まがいの情況を市民は白昼、目の当たりにした。東大安田講堂に墜落したとしても警視総監の立ち入りは拒否されると。それは地位協定によっていると著者は警鐘を鳴らしている。
 地位協定は、はじめに日米行政(地位)協定ありき、から始まる。日本とアメリカのその関係ってなんだろう。そこに着目したのが元外務次官の寺崎太郎の視点である。サンフランシスコ平和条約も日米安保条約も「ために」で構成されることが解った。行政のために安保、安保のために平和、と目的が逆さまな三段構造を発見した。著者はそれを「鋭い」と賛辞する。
 日米の政治構造の謎が解けた瞬間である。
 アメリカは一方では見せ掛けの「独立」を仕掛け、平和条約を結んだ。他方では、ずるけざまに安保条約を結んで占領軍の「駐留」を継続するという矛盾を冒している。冷戦・朝鮮戦争とともに防共の後方前線基地に無防備の日本を巻き込んだ。こうして沖縄、奄美などを分離し、戦後のどさくさに紛れ日本全土を基地化した。
 平和条約には出せない、やましい内容は安保条約に盛り込んだ。それでも不都合な文言は日米行政協定に擦り込んだ。外務省の片隅で、強引にあの手この手で小細工した。それでも不具合な場合は、巧妙にも付属文書で密約にした。あらゆる工作をしてまで自陣に引き込む真意はなんなのか。吉田茂以来の「対米従属・秘密外交」は、外交不振と国の閉塞をまねいた。
 「われわれが望む数の兵力を、日本国内の望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保することである」というダレスの有名な「全土基地化方式」発言が、日本から主権を奪った。憲法をそっちのけにして行政協定が大切だというのは、全く逆立ちしている。こうして実効支配の基礎を作った。そのあたりは孫崎享著『戦後史の正体』に詳しく紹介されている。日本の首都に警戒体制を敷くかのように、現在も横田、厚木、横須賀などには合衆国軍隊が居座る。
 日本は戦後の占領状態と全く変わらない。憲法9条の危機が叫ばれて当然である。1960年の安保改定などは、美文空文に等しい。米兵は「地位協定」に代わっても協定を守らない。基地内の補償ではゴネ得や犯罪者の逃げ得等する特権の付与と濫用が目に余る。
 オスプレイ配備と訓練飛行は、日本全土で強行し始めた。これもアメリカが自由に使えるよう「協定」で決めてある。安保と原発の共通点やTPPにも同様に言及している。アメリカの利害を中心に連動し、不法協定が世に憚(はばか)るだけのこと。だから米軍は、鬼畜「米兵」と世界から揶喩(やゆ)もされる。
 この日米地位協定ほど不平等条約は他にない。外務省は「妥協」の継続を繰り返してきた。読み解くほどに絶望の淵に立たされる。日本という国家のもろさと植民地体質を見せつけた。大手マスコミも黙殺し、外務省は国民を欺いてひた隠しにした。
 苦悩しても、そこで思考停止せずに日本人は「本土の沖縄化」と向き合わなければならないと、著者は力説する。
 また「自主独立」の路線を構築するチャンスかも知れないと、結んでいる。20世紀の「遺物」とおさらばし、新しい酒は新しい革袋に入れるのがよい。「パンドラの箱」の重いテーマに挑戦した著者たちの勇気と労苦を讃えたい。
 それと外務省機密文書「日米地位協定の考え方」は日米の真相を裏付ける驚くべきマル秘資料である。
 「Q&A」全17問は、広く国民に共通理解と高校生にもわかる当たり前の政治を語れる原点である。
 本書は、21世紀を生きる、全国民必読の書である。地位協定は、やり直しするしかない。対等を基軸に日本が日米の呪縛から解放される日まで確かな発信源となるであろう。
(近現代史研究) 







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