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評者◆ミシマ社・三島邦弘代表
多様性こそ出版の存在意義──地方出版にこだわり、京都に移住。“媒介者”として地域の空気を取り込み出版活動に活かす
No.3110 ・ 2013年05月18日




 2006年10月に、ある版元から独立して出版社「ミシマ社」を立ち上げた三島邦弘氏が、京都に拠点を移して出版活動に取り組み始めた。その第1弾となるのが4月1日に新体制で創刊したWEB雑誌「みんなのミシマガジン」だ。同社は東日本大震災を契機に、京都府城陽市にオフィス兼店舗(ミシマ社の本屋さんを併設)を設け、今年4月には京都・烏丸三条に京都オフィスを開設。社長の三島氏も昨年、城陽市に住居を移して京都オフィスに通勤しながら、週に1度のペースで東京・自由が丘の事務所に通う日々という。「比喩ではなく、文字通り第2の創業」と位置づける三島社長に聞いた。
 三島邦弘氏が15年前にある出版社に入社してから一貫して抱き続けてきた違和感がある。「読者に向き合わず、会社の論理だけで進む出版活動」だ。独立開業するまでに、版元2社に在籍したが、この違和感は最後まで拭い去ることができなかった。「あの出版サイクルという産業のリズムに抗いがたいのも分かるが、その圧力から抜け出し、その空気感と一線を画した場所でやることで、もう一度本質的な出版活動ができると思った」。
 一念発起した三島氏は06年10月にミシマ社を創業。「原点回帰の出版社」を標榜し、「一冊入魂」の思いをこめて、丹念な書籍づくりに努めることを自分に戒めた。取次を介した委託流通を活用せずに書店と直接取引きするのも、一点一点の書籍をじっくり書店で売っていきたいというこだわりがあるのだろう。創業直後の07年には内田樹氏『街場の中国論』が話題を集め、その後も『街場の教育論』など内田氏の「街場」シリーズは毎回増刷がかかる売れ筋に。さらには平川克美氏『小商いのすすめ』、松本健一氏『海岸線は語る』など多くの話題書を世に輩出してきた。
 そのミシマ社が地方にも拠点を設け、第2の創業とまで位置づけて地方からの出版にこだわろうとしている。「出版の一番の存在意義は多様性にある。小さな声をどれだけ拾って形にするか。ほぼ東京一極集中になってしまっている今は、どうしても出版される本に偏りが出てしまう。各地方に出版メディアが存在する状態がいいと創業時から思っていた。ただ、あの頃は東京以外で一度も仕事をした経験がなかったので、自分自身やっていく自信がなかった」と話す。
 しかし、2年前に東日本大震災という大きな転機を迎える。「そのいつかがここしかないと思った。これを逃せば次はない」と京都・城陽市へのオフィス設置を決断。京都を選択したのは京都市出身で、大学時代まで京都で過ごしてきた経験などもあったから。その後2年という助走期間を経て自身の気持ちを整理し、京都への足場を固めていった。
 その一方、三島氏は昨年から仙台市で「寺子屋ミシマ社」と題し、出版に興味のある老若男女を集めて、今秋までに書籍1点を出版する企画もスタートさせた。現時点では男女15人が参加しており、最終的には10人以内で企画を練り、取材・執筆・編集し、書籍の刊行を目指すという。
 こうした「地方」にこだわる一方、「自分たちが何かを発信したいという思いはあまりない。メディアは発信ではなく媒介である。自分たちが面白いと感じるものを伝わる形にして届けるのが自分たちの役割」と話す。媒介者であるがゆえに、その地その地の空気を感じなければ、本を作ることができないからこそ、京都へ移転した。「京都のこの街には音楽や本など文化的なものがたくさんある。それだけで刺激的になる。出版はそういう場所で、そういう空気を感じながらやっていくほうがいい」。三島氏自身にもどのような作品が結実するかは、まだ見えてこないというが、「どうなるかが分からないこともまた楽しみ。正解なんか分からない。とにかく一回動いて、そこから学んでいくしかない。土地と自分たちを支えてくれる人たちにあったやり方を模索していきたい」と話す。
 さらに、京都移転に合わせて、三島氏は「地方出版が成り立つという一つのモデルを形成するためにはWEB活用は不可欠」と、WEB雑誌「みんなのミシマガジン」を4月1日に創刊した。これは09年7月から続くWEB雑誌「ミシマガジン」をリニューアルしたもの。元々、「ミシマガジン」はバナー広告など他社からの収入に頼らず、自社経費で運営してきた。
 これを、サポーターを募って運営費を会費収入で賄い、WEB雑誌を運営するように体制を変えた。掲載内容もリニューアルしたほか、「みんなのミシマガジン」に掲載した書店員の本紹介や作家のエッセイなどの「読み物」とオリジナル連載作品を掲載した非売品「紙の完成版」をサポーターに毎月贈呈するという仕組みだ。4月中旬時点でサポーターは70人ほどだったが、5月頭には200人近くが集まったという。
 「世界中の人が無料で読める読み物にしたいと考え、サポーターの人たちに運営費を出してもらう仕組みにした。サポーターにはミシマ社から毎月、紙版の月刊誌を贈らせてもらう。こうした贈与経済を実現したいのが趣旨」「ちゃぶ台みたいなメディアを目指したい。おじいさん、おばあさん、お父さん、お母さん、子どもたちがいて、そこで交わされる会話はマニアックであったり、日常のどうでもいいことであったり、そういうものをすべてひっくるめた雑誌にしたい」。







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