書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆北川毅(代官山蔦屋書店、東京都渋谷区)
体にいいことってどんなこと?──A.J.ジェイコブズ著『健康男──体にいいこと、全部試しました!』(本間徳子訳、本体1800円・日経BP社)
No.3109 ・ 2013年05月04日




 当店には、あるジャンルに特化した知識や経験をもつ「コンシェルジュ」がいて、お客様からの様々なお問い合わせに可能な限りお答えしています。先日、料理を担当するコンシェルジュから聞いた話で、お客様より「オススメして貰える健康法の本はありませんか?」と問い合わせを受けて、少し悩んで「オススメできる健康法の本はありません!」とお答えしたとのこと。
 本屋、ひいては接客業としてこの返答が正しいかどうかは別にして、このコンシェルジュの良心に基づく返答なのは間違いありません。ちなみにこの返答を聞いてお客様は特にお怒り等はなく、寧ろ、ご納得されていたとのこと。
 上記の例を見るまでもなく、健康に関する本(本以外の分野でも)はお客様の関心の高い分野なのは間違いないのですが、健康情報はいまや常時洪水のように氾濫していてその効果や見極めが難しいのも事実。
 そんな数々の健康法を2年以上に亘って実践した結果をまとめたのが、今回ご紹介する『健康男』。著者は米エスクァイア誌の編集者。ちなみにこの方、以前にも、聖書の教えを1年間忠実に守って暮らす生活を綴った『聖書男』や、1年かけて33000ページの百科事典を読破に挑んだ『驚異の百科事典男』等の著作をお持ちの、ある意味「確信犯」です。
 今回のプロジェクトの目的は「さまざまな健康法を自分の体で実際に試すことで真の健康法を見出す」こと。ただ沢山の健康法を実践しただけではありません。
 ピックアップした最新の健康法のリストは53ページにも及びますが、それぞれの健康法の科学的根拠を丹念に検討して、可能な限り公正に判断を下し、納得できないものは納得できないと明言しています。非常に手間のかかる作業で敬服に値しますが、それぞれの健康法が何故か極端なものばかりで。
 パスポートを取ると寿命が延びる? だてメガネでも視力はアップする? 雑音の多い職場は心臓に良くない? 悪態をつくと痛みが和らぐ? 和式トイレのほうが痔になりにくい?
 何故著者はこんな極端な方法を試すのか。それは「限界を探ることによってのみ完全な中庸を見出すことができる」ことを経験則によって知っているからと語っています。つまりこの本は「健康法」という身近なトピックを題材に「物事を突き詰めて考えることの重要さ」を教えてくれているのです。
 他に、この本の特徴としては、強い伝染性が挙げられます。掲載されている数々の健康法を実践してみたくなるのです。訳者は一本歯の下駄を履いて立ったまま原稿を書くようになり、編集者はノイズキャンセリングイヤホンをして、必ず走って打ち合わせ先に出向き、私は和式トイレをわざわざ探して使用するようになりました。皆さんもこの本を読み終わるころには、健康法を幾つか実践したくなっているのでは?
 著者の健康法実践の結果は読んで頂いてのお楽しみですが、意外な程の娯楽性と雑学性に溢れているので、1890円のお値段も寧ろお買い得に感じて仕舞う程です。







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約