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評者◆秋竜山
目線に遅れをとってはいけない、の巻
No.3109 ・ 2013年05月04日




 かつて、目線とは目から矢印が出て、……と伸びていく記号のようなもの。古くからマンガではさかんに使われたものだ。ところが、目線とは、そんな単純なものでない時代になった。目線の進化というべきか。目線の時代となれば、会話の中にもやたらと目線なる用語が飛びかう。この目線の意味は危機意識の産物であるという。目線なんて気にしないよ!! なんて、のんきにいっている場合ではない。冷泉彰彦『「上から目線」の時代』(講談社現代新書、本体七六〇円)という本。目線とは、上からとか、下からとかの目の高さ。
 〈患者の権利意識が徐々に高まってゆく中で、たとえば腫瘍が見つかって心配していた患者に対して「検査の結果は良性でした。心配ありません」と一方的に通告するだけでは、患者の動揺が鎮まらないというようなことが多くなった。そこで「腫瘍と聞いてご心配になったでしょう。お気持ちはよく分かりますよ。でも、検査の結果は良性でした。この検査の精度は…」というように、「立場を入れ換えた視点」を持つことで、相手の心理状態を察し、スムーズなコミュニケーションを図るような姿勢が推奨されるようになった。「患者の目で」というのは、そうした姿勢のことである。〉(本書より)
 昔の医師は、なんにも教えてくれなかった。怖い顔をしていた。「あの……どこが悪いんでしょうか?」と、聞くのもおそるおそるであった。それでも、自分の病名ぐらい知りたいものだから、「あの……」。医師は、患者は病名など知らなくてもいいものだ、ぐらいしか思っていなかったようである。聞いてもわかるものではないだろう、ぐらいしか思っていなかっただろう。たしかに、ボソリと病名が口から出たからといって、患者にはサッパリわからなかった。家へ帰って、「なんだったんだい」と、家のものに聞かれても、「なんだかよくわからなかった」としか答えられなかったのである。医師とはそーいうものであった。子供の頃、ラジオ放送で落語などでのお笑いに、医者を扱ったものがあったりする。その落語でも、医師は常に口をへの字に曲げて口を重くして、怖い顔をしていれば、患者は、とっても偉い医師として信じられる気持にさせられる。ヘラヘラしていては患者はその医師は、あんまり偉くないのではないか、なんて思ってしまうという落語の内容であった。このヘラヘラが「下から目線」ということになるのだろう。
 〈教師や医師など社会的な地位の高い人間が、わざわざ「下から目線」の姿勢を取ってくるというのは、そんなわけで、どこかに「下心」が見えてしまう危険があるのだが、もっと普通の社会生活の中ではどうだろう。結論から言えば、こちらもあまり印象は良くないようだ。恐らくは二〇〇〇年以降と思われるが、ハッキリと「上から目線」という言葉が流行し始める前に、社会全体、とりわけサービス業の現場などで「とにかく目線を下げよう」という「気分」が蔓延し、いまに至っているように思われる。〉(本書より)
 今に、テレビなどで「視聴者目線」なんて番組がはじまるかもしれない。目線に遅れをとってはいけない。選挙の清き一票も、清き目線ということになるのだろう。面白くなってきたぞ。







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