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評者◆伊達政保
時空を超える歴史批判、高取ワールドの原点──高取英の『聖ミカエラ学園漂流記』が、14年振りに再演
No.3109 ・ 2013年05月04日




 そうだ、こうした蜂起の震えるような感覚が、いまこそ必要なのではないか。全力をもって私怨に投じ、「神を殺せ!」と三千人の女子高校生が叫び、闘いに立ち上がるシーンを見て、オイラそう思ったのだ。
 月蝕歌劇団を主宰する劇作家高取英が30年前に書いた作品『聖ミカエラ学園漂流記』が、14年振りに再演された。この戯曲が出版されるやいなや、高校・大学で上演され、小説化、藤原カムイによる漫画化、アニメ化されてセンセーションを巻き起こし、ついにはVシネマ化されたという伝説的な作品である。残念ながらオイラ14年前は見ることができず、今回初めて見ることができた。都合でマチネを見たがあまりにも興奮してしまい、その日のソワレも見てしまったほどだ。
 この作品のストーリーはとても一筋縄ではいかないが、乱暴に纏めてみよう。太平洋戦争末期、「聖ミカエラ学園」に女子高生が転校して来る。この学園は卒業後、宝塚歌劇団に入れるということで、稽古と称し武闘訓練も行なっていた。しかしその内実は、園長のシスターが恋人である海軍将校との愛を成就させるべく、将校と手を組み宝塚へ卒業生を送り込み、将校はその宝塚を海軍専属慰安婦として兵に与え士気を高揚させると共に、彼女らを兵力として一挙に戦局を好転させ、自分達の世界を築こうというものであった。
 時空は飛んで中世ヨーロッパ、聖地エルサレム奪回を目指す十字軍の度重なる敗北に、純真無垢な少年なら神の加護があるだろうと法王は少年十字軍を派遣。艱難辛苦の果てにマルセイユにたどり着いたハンス・ハイルナーたち少年十字軍は、奴隷商人に売り飛ばされ神や法王への憎しみのうちに死んでゆく。「聖ミカエラ学園」の転校生美村にハンスは転生、学園の内実を暴き女子高生達は一斉に蜂起し叛乱を引き起こす。個々人の決意表明を含むこのシーンは、ゾクゾクするほど素晴らしい。ストーリーはこれで終わらない。
 武装した女子高生達は、時空を超えて島原の乱に現れる。天草四郎が反乱に協力させるために彼女らを呼び寄せたのだ。法王となり神となろうとする天草四郎を「神は死んだ」と言って殺し、美村四郎となった転校生により島原の乱は「島原維新」となり徳川幕府を倒す。ついにはヨーロッパ遠征を行ない、神聖ローマ帝国をも滅ぼすのだ。
 時空を超えることで、パラレルワールドを使った、あったかもしれない歴史による現在の歴史批判、まさに高取ワールドの原点ともいえる作品ではないか。オイラが見たその日、コンクラーベによって初めて南米出身の新たなローマ法王が誕生したというのも何かの因縁のように感じたのだ。
(評論家)







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