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評者◆佳多山大地
歴史的名称〝新本格〟から解放されるべき時期が来た──不思議なほど幸福な時代だった二五年をまとめた一冊
新本格ミステリの話をしよう
佳多山大地
No.3107 ・ 2013年04月20日




 ミステリ評論家の佳多山大地氏が、『新本格ミステリの話をしよう』を上梓した。昨年で二五周年を迎えた新本格ミステリ。『十角館の殺人』で口火を切った綾辻行人を筆頭に代表的な二五人の作品を論じた評論集だ。古今東西のミステリを扱った前作『謎解き名作ミステリ講座』同様、まず目を引くのが外箱。本作のそれには〝十字窓〟が設けられ、そこを通して表紙に描かれた絵(虫眼鏡、書籍、猫そして足跡)が見える仕掛けになっている。
 「同業の千街晶之さんに「窓が十字になっているのは『十角館の殺人』の十なんでしょうね」と言われたのですが、そんなことは考えもしませんでした(笑)。しかし確かに、綾辻さんの作品から話を始めているし、なるほどそういうことにさせてもらおう、と。一九八七年に綾辻さんがデビューされてから本格復興の機運が盛り上がって四半世紀が経つわけですが、初期に登場した方たちが今でも第一線で活躍されている。これは本当にすごいことだと思います。これだけ長く続いたミステリのブームは、過去にありません。しかしそろそろこの二五周年が一つの区切りかなとも思います。〝新本格〟というレッテルから完全に解放されるべき時期が来たという思いがあってまとめた一冊です。多くのミステリ作家たちは、もはや新本格ということを念頭に置いているわけではありませんから、その意味ではすでに〝歴史的名称〟だと言えます」
 二五年という長期にわたる隆盛を支えることができたのは、何はともあれ豊富な人材である。
 「本書に収録した「新本格を識るための100冊」に顕著ですが、いわゆる「綾辻以後」の新人に限って八五人の名前を挙げてもまだ「この人を落としていいのかな……」という作家が何人もいる。この四半世紀だけでこれだけの本格派作家が登場したのは驚くべきことです。横溝正史、鮎川哲也、高木彬光らが支えた戦後のブームや、探偵小説専門誌「幻影城」から連城三紀彦、泡坂妻夫らが陸続とデビューした時期と比べても、ここまで爆発的に新しい書き手が呼び込まれたことはなかった。二〇年後か三〇年後かにまた次のブームが来た時、不思議なほど幸福な時代だったと振り返られるのではないでしょうか。戦後に江戸川乱歩が私財も投じて推理小説界を下支えしたように、今度の新本格ムーヴメントに関しては、笠井潔さん、島田荘司さんらが若手の発掘を熱心にされた。新本格以前から活躍していた実力者たちに面倒見のいい人が多かったからこそ、後進の作家が続いてきたんだと思います」
 そして傑出した才能の持ち主が百花繚乱のごとく出揃っただけでなく、若い読者の圧倒的な支持があったからこそのブームであったことは言うまでもない。
 「僕は中学生の頃に創元推理文庫を読み始めて、高校生の時に新本格と出合った。やっぱり面白かったですよね。日本を舞台にして、しかも若者が主役だという点で親しみがあった。『十角館』はもちろん、法月綸太郎さんの『密閉教室』にしても有栖川有栖さんの「江神二郎シリーズ」にしても、当時の僕と同年代や少し上の大学生が物語の中心人物です。謎解きだけを主体にした本格ミステリというだけではムーヴメントにはなっていなかった。やっぱり古典を踏まえてさらにひとひねり更新しようという情熱と、名探偵の復活、そして何と言っても青春小説であったことが大きい。初期の新本格作品が、〝大人の論理〟と対立しながら自我を形成してゆく若者たちを描いていた側面を見逃すわけにはいきません」
 「(18)辻村深月『冷たい校舎の時は止まる』」では、相米慎二監督の『台風クラブ』を下敷きにして論じるなど映画への言及が数多く、その造詣の深さが伺える。「(14)乙一『GOTH』」の章では、「(大学時代)所属していた映画研究部」とある。あれ? ミステリ研究会ではなくて……?
 「元々映画が大好きだったので映画研究部に入りました。いちおう大学に認められていた正式な部です。学習院大学に入って、早稲田大学が近かったのでワセダミステリクラブに入ろうかと思ったのですが、どうも怖そうな気がしてやめました(笑)。現在、ミステリ専門誌「ジャーロ」で「意外と意外な意外性」という連載を始めているのですが、それは映画と小説を並べて〝意外性〟とはいったい何かを探ろうというものです。そもそも僕の評論の基本は、真相を明かされた時に自分がなぜ驚いたのか、その理由を追究することですね。それを欲張りにも面白く読者に伝えることができればと思っています」
 新本格ミステリは、マニアのためのジャンルにしておくにはもったいない傑作の宝庫。佳多山氏の丁寧な評論を参考に、ぜひお気に入りの作家を見つけてほしい。
▲佳多山大地(かたやま・だいち)氏=1972年生まれ。大阪府出身。1994年「明智小五郎の黄昏」で第1回創元推理評論賞佳作入選の後、ミステリ評論家として活躍。単著に『謎解き名作ミステリ講座』(講談社)。







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