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評者◆小嵐九八郎
人類史の最大のテーマの男と女に実に懸命──島田雅彦著『傾国子女』(本体一六〇〇円・文藝春秋)
No.3107 ・ 2013年04月20日




 今回も、前書きが長くなる。バイト先の私大の学生が、講座後に、「しぇんしぇい、文豪になるには、どぎゃん努力が必要でっしょうかね」と去年の十二月の忘年会の立て込むくそ忙しい時なのに話しかけてきた。学生は例として「漱石、川端康成、谷潤、三島、大江」と挙げた。「あのねえ、Sくん、その前に五枚の超短編、六十枚の短編小説の宿題を出しなさい」とは“ヒューマニスト”の俺は言いづらい。そもそも学生の志が雄大だからして。
 それで、当方は「漱石、近代人、従って現代人の抱えてしまう宿痾であるエゴイズムを深追いした思想性の貫きにある。前提として小説が面白いことがあるけど」、「川端と谷潤は、戦争が起きようが何が起きようが、美というテーマを生涯追い、脇目も振らなかった」、「三島、そ、Sくんが名指ししなかった太宰も、小説の面白さより、割腹と心中というブンガクより行為の味つけ、行為によっての何千倍の膨らませ、残った」、「大江氏は、敗北者や障害者の切実な社会的テーマに敢然と、時に泣きの姿勢で向かったし、向かっている。テーマの一貫性だろうな」と、しかつめらしいことを答えた。
 そしたら、学生Sくんは「だどーん、ハルキは?」と聞いてきた。「ああ、村上春樹さんね。あの人は死後残れない。理由は、小中学校の先生や、かつての共産主義の実行の親分のレーニンのような外部から作家が立って読み手に説教する傲慢な態度はなくて好ましいが、読者とのピンポン玉を楽しんでるだけで、主張、テーマがまるで淡いから」と答えた。「ほんなこつ?マサヒコは? 三流作家のしぇんしぇ」、うるっせえ、いや、真剣に問うてきた。「うむ。いい質問だ。時代・権威への諧謔的批判精神、人類史の最大のテーマの男と女に実に懸命だものな。ま、もちっとけちって寡作に。文章につまんなさ、無駄を入れたらな」と学生と別れた。
 本屋で、その島田雅彦氏の『傾国子女』(文藝春秋、本体1600円)を買った。なにせ最大級に愉しい興奮に陥る。時に、老人は悲しく涙する。文章のテンポも快い以上だ。ただ、場面転換の速さにもちっと自粛を、とは望み過ぎか。
(作家・歌人)







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