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評者◆北川毅(代官山蔦屋書店、東京都渋谷区)
協調、連帯の必要性を訴える──ジョージ・ソロス他著『世界は考える』(野中邦子訳、本体1900円・土曜社)
No.3105 ・ 2013年04月06日




 所謂リーマンショックから5年。働き始めてから好景気な時期を知らない筆者(38歳)にはあまり実感はないが、書店の店頭からはその後の変化が感じ取れる。経済分野の一般向け書籍はこれまで「これから」「中国」「復活」等がタイトルについたインスタントな「占い本」がランキングの上位の多数を占めていた。主に身の回りのお小遣い稼ぎと老後資金のための本だ。
 しかし2009年発行の『ブラック・スワン』(ダイヤモンド社)以降、年に数点とはいえ経済の本質に纏わる本が話題になるようになったのは良い兆しと思いたい。
 今回取り上げる『世界は考える』は23篇から成る論考集。各論考を取りまとめたのはチェコのプラハに本部を置く国際的言論組織、プロジェクトシンジゲート。日本ではなじみはあまりないが、世界中の新聞雑誌に世界の指導者・思想家・研究者の書き下ろし論考、エッセイを配信している。本書の23篇もそれぞれ著名な政策当事者・研究者・経営者たちによる書き下ろし。スティグリッツ教授、IMFラガルド専務理事、ビル・ゲイツ、ジム・オニール、ジョージ・ソロス、黒田日銀新総裁、パネッタ米国防長官、マイケル・サンデル教授等など。あまりにも豪華で、世界屈指の知性の集まりなのでいまの世界が抱える問題点を明晰に分析してズバッと解決法を明示するかといえば、決してそういう訳ではない。そもそも答えが簡単にでる、と思うのが間違いなのだろう(売れ筋ランキング上位のインスタントな「占い本」にはよく答えが書いてあるが)。
 本書は「答えは世界の皆でそれぞれ考えましょう」のスタンスではあるが、世界の知性が提起する問題を知ることは世界を知ることに直結する。
 欧州危機って終わってないよね?
 FTAやTPPの前にWTOはどうなった?
 銀行って本当に重要すぎて潰せないの?
 市場原理はホントに正しいの?
 中には「反政府勢力に武器の供給をするべき」という主張もあって違和感を感じる論考もあるが、23篇の殆どに共通する概念がある。それは協調、連帯の必要性を訴えていることだ。どんなに優れて的確なタイミングの金融政策でも、一国の当局だけの施策では効果は限定的になる。
 逆に考えると、この本に掲載されているような世界論調を実現するには、いかに協調出来るようなグローバルな仕組みをつくるかが最大の問題ということだ。
 「われわれの未来を形づくる論点について確かな洞察をもたらしてくれる」
 このスティグリッツ教授の言葉が本書の価値を端的に表している。
 余談だが、この本の発行元、土曜社は社員1名の極小出版社だ。土曜社のホームページに記載されている、「Books with Attitude.個を示す。個人の態度をあきらかにするような本を出版します。」
 この言葉に感銘を受けて、当店は取引を開始した。
 出版界の魅力は、規模の大小にかかわらずに、社会に影響力を行使出来ること。新書サイズ、192ページで1995円の価格は割高に思われるかも知れないが、これだけの執筆陣だ。寧ろお買い得と断言させて頂く。
 また、この本のお楽しみとして、執筆陣の動向に注目し、本書と現実の動きとを比べてみることを強くおススメする。







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