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評者◆伊達政保
まるで「闇の紅白歌合戦」のようなステージ──渋さ知らズ初のカバー・アルバム『渋彩歌謡大全』リリース・クアトロ・ツアー
No.3105 ・ 2013年04月06日




 渋さ知らズ初のカバー・アルバム『渋彩歌謡大全』リリース・クアトロ・ツアー。名古屋、梅田、広島と来て2月27日渋谷クアトロが最終日だった。渋さ知らズ・オーケストラの演奏をバックに、三上寛が水原弘の「黒い花びら」を歌い、片山広明がテナー・サックスで絡む。オイラと同年代の二人だからこそ出来る、同時代歌謡曲の過激なまでの表現だ。歌姫Sandiiがこれまた水原弘の「黄昏のビギン」(後年ちあきなおみがカバー)を歌い、遠藤ミチロウが三上寛版「夢は夜ひらく」を絶唱する。渚ようこが西田佐知子の知る人ぞ知る名曲「恋は夢いろ」を歌う。坂本美雨が渋さの曲「渡」を歌い、Keycoが「スワロウティル・バタフライ~あいのうた~」を歌う。これだけのゲストを揃えた贅沢なステージだ。
 アルバムにはアルト・サックス泉邦宏の歌で北島三郎の「帰ろかな」、渡部真一の歌で寺山修司作詞、J・A・シーザー作曲、東郷健の「君は答えよ」も収録されていたが今回のステージでは歌われず、変わりにゲストが彼らのレパートリーから、Sandiiが「恋は水色」「蘇州夜曲」、ミチロウが「ワルシャワの幻想」「天国の扉」、渚ようこが極め付け「鴨ネギ音頭」、坂本美雨が「ネバー・エンディング・ストーリー」、などを聞かせるという、何とも超豪華版であった。
 世界で注目を浴びるアングラ・フリージャズ・パフォーマンス集団“渋さ知らズ”が歌謡曲と聞いて訝る人も多いと思うが、彼らの音楽にはもともとジャズ、ロック、フォーク、歌謡曲など様々な要素が混在していたのだ。昨年亡くなったドキュメンタリー映画監督布川徹郎は晩年に遺した自伝的長編評論『昭和の子』(未刊行)の最後に渋さ知らズについて「集団活動の中で、指導者が良導するのでは無く、突出した意見や行為に『運動体』を引きずって行く、異質なモノを包摂する、近代国家原理とは真逆の組織形態を持っているように思う」「素人の提案だが『渋さ知らズ』のレパートリーに『日本歌謡・民謡』などのアレンジを取り入れたらどうだろう」と記しているくらいだ。
 アルバムとコンサートで聞かれた昭和(といっても戦後だが)の歌謡曲は、彼らの演奏と歌により、今はほとんど忘れられてしまっている歌謡曲本来が持っていた過激な情念と輝きを、現在に蘇らせてくれているようにオイラには思えたのだ。一時の昭和歌謡ブームを懐メロではない歌謡曲の復権とするためには、こうした方法論が必要なのだ。演奏と歌ばかりではない。舞踏、ダンサー、パフォーマー、映像などにより繰り広げられた今回のステージは、まるで「闇の紅白歌合戦」のようだった。
(評論家)







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