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評者◆小嵐九八郎
パレスティナ側の緊迫した政治力学──重信房子著『革命の季節――パレスチナの戦場から』(本体一七〇〇円・幻冬舎)
No.3105 ・ 2013年04月06日




 俺の無知のせいなのだが、どうも、一月中旬起きたアルジェリアの武装集団のことも、そもそも、この二、三年の〝アラブの春〟の件も、何が人類史の真っ当な道なのか、どこに心情の連帯を結んでいいのか、迷いに迷う。
 ただ、アラブ諸国やパレスティナを巡る問題で、老いた頭で気づくのは、アメリカとヨーロッパ諸国の権力者及び人人は、どうも、パレスティナとイスラエルでは、イスラエルにだけ肩入れして、追い出されてしまったパレスティナの人人に過酷という二重の基準が気になる。
 この二重の基準は、イスラエルの金融や資本が米欧にとって重大だし、ユダヤ人をアウシュヴィッツをはじめとしての抹殺に走った責任の罪償いの気分もあるのか。もしかしたら、『新約聖書』と『旧約聖書』の──苦渋に満ちていたはずとしても──近さと、『コーラン』との遠さの違いか。一一世紀末から一三世紀後半にかけての〝キリスト教徒のイスラムの地のパレスティナ奪還〟の遠い記憶のせいか。もしかしたら、欧米の歴史教科書によっては、なお、新しい記憶なのかも。
 それにしてもと、思う。我ら、二十代半ばの頃、一九七二年、日本は若葉の美しい頃、当方は〝カゲキ派〟でテレテレ歯痒く国家と対峙したつもり、でも、背中の好きな党派との殺しあいが前にあり「やるっきゃねえ」と狭い決意に燃え始めた時、イスラエルのリッダ空港で、アラブの赤軍派らしい諸君が銃撃戦をやった。その奥平氏と安田氏は自爆、生き残った岡本氏はイスラエルの軍事裁判で終身刑という、インターナショナルな、あまりに、世界の矛盾の集中した地点での命がけの決起に、仰天した。
 それが、ことごとく、今までよりつぶさに、決起に至る過程、その兵士のキャラクター、パレスティナ側の緊迫した政治力学が描かれた本に出会った。懲役二十年で獄中、小腸ガンと闘う、重信房子氏の『革命の季節──パレスチナの戦場から』(幻冬舎、1700円+税)である。活劇の事情はクロサワの『七人の侍』ほどの凄味。同志との絆は高倉健の『残侠伝』シリーズ以上。今の〝アラブの春〟の分析は、外務省よりもっときりり。幻冬舎社長の見城徹氏の「序」は、思わず泣いてしまうほどに情に勝る。
(作家・歌人)







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