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評者◆秋竜山
欠如だらけの、ひととマネキン、の巻
No.3104 ・ 2013年03月30日




 面白い本は、タイトルから面白い。鷲田清一『ひとはなぜ服を着るのか』(ちくま文庫、本体七六〇円)がそれだ。服を着るということを、あらためて問われると、まず、そんな発想をするひとにビックリさせられる。ひとは、服を着たりぬいだりすることを繰り返し一生を終えるのである。服にふりまわされるといってもいいだろう。若い時には、服装に目うつりするものだが、どんな服でもよくなってしまうのが、年をとったということである。ひとは、服装によって人物の品定めをする。高級ホテルなどへ、つぎはぎの服装でいったら、出ていけ!! と、どなられるだろう。
 〈ひとはなぜ服を着るのか。この問題を解くためのものとする考え方から一度離れる必要があります。(略)そうすると、すぐに一つ、奇妙なことに気がつきます。それは、ひとはなぜじぶんの身体をいろいろいじくりまわすのか、どうしてそのままに、自然のままに放っておけないかということです。〉(本書より)
 著者は哲学者である。私はフッと思った。原始人の絵で気づかされるのは、動物の毛皮などを身につけている。恥ずかしいから、かくしているのか。自然のままの姿では恥ずかしいということか。動物はなぜ服を着ないのか。恥ずかしくないからか。私は無い頭をしぼった。つまり、原始人にとって服とは動物の毛皮であるということだ(葉っぱなんてのもあるけど)。布なんてものはなかった。動物の毛皮こそ、原始人にとっては日常的な服であった。動物たちはどうかというと、服を着たまま生まれてきたようなものであった。もし逆だったらどーしましょう。動物が人間の皮を服にする、なんて。人間は服を着ないで生まれてきたことによって、服装の歴史をつくりあげてきたことになる。本書に〈マネキンという形象〉という項目がある。
 〈マネキンは一見したところ、生物学の教室の人体模型のように、原型としての「生まの身体」を忠実にコピーしたオブジェのようにみえる。が、なにかが欠けている。覆いが欠けている。個性が欠けている。リアリティが欠けている。いのちが欠けている。(略)ともかく欠如ということがマネキンの最初の特徴をなしているのはまちがいない。〉(本書より)
 欠けているのはマネキンばかりではありません。ひとも欠如だらけである。そしてひとは文句ばかりいっている。マネキンは無言である。マネキンのいいところはひとに対し文句一ついわないということだ。そんなマネキン(服を着ていない)をかかえて街頭を歩かねばならないハメになった時、どうしたらよいのであろうか。ウインドウに衣類を着せてないマネキンが無造作に置かれてあったとして、まず眼をそらすだろう。助平と思われたくないからだ。裸のマネキンをかかえて銀座の裏通りを歩いているひとを見かけたが、ドキッとする光景であった。美術館などに置かれてある裸婦像を、いや早い話が、あのミロのビーナスなんて、あれは芸術作品であるから、押すな押すなであれを見て恥ずかしいなんて一人も思わないだろう。ミロのビーナスをマネキンにすりかえて置いてみたらどーだろうか。芸術作品でない!! と、ひきずりおろされるか。ミロのビーナスもマネキンも同じようなものではないか!! なんて、いおうものなら、人間失格とされてしまうのだろうか。







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