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評者◆秋竜山
ラジオ体操の不思議、の巻
No.3103 ・ 2013年03月23日




 あれは、なんという映画だったろうか。音楽がきこえてくると、自然に体が動きだし、踊りだす。音楽がなっている限り、踊りはやまない。音楽がやむと、とたんに踊りがやむ。と、思ったらまた音楽がなりだす。又、踊りだしてしまう。エノケンだった。エノケンの踊りであるから、どのような振りつけであるか察しがつく。そんな映画を昔、観たのを、思い出した。あのエノケンの奇妙な踊りの動きは? そーだ!! アレは、ラジオ体操の動きそのものではないか。まるで、動くロボットのような。高橋秀実『素晴らしきラジオ体操』(草思社文庫、本体六八〇円)を読みながら、映画でのエノケンの笑わずにはいられない動きのする踊りのことを思い出した。
 〈年中欠かさず、ラジオ体操に行く人を、自称「ラジオ体操人」という。「槍が降ろうがラジオ体操」とはラジオ体操人の決まり文句で、本当に暴風雨の中、カッパを着てラジオ体操している。〉(本書より)
 国民の中でラジオ体操を知らない人はいないだろう。うまれたばかりの赤ん坊だって知っている。
 〈いつものように首都圏の道路交通情報が流れ、そしてアナウンサーの声。「間もなく六時三〇分です」老人たちはすでに直立不動になっている。この状態に話しかけると、顰蹙を買うので私も直立不動になる。「全国の皆さん!おはようございます」威勢のいい声がラジオから流れると(略)〉(本書より)
 日本中朝であり、同時に六時三〇分をむかえる。雨がふろうが、風がふこうが。
 〈藤海洸作詞・藤山一郎作曲の子供たちの合唱、「ラジオ体操の歌」が流れる。
 新しい朝が来た/希望の朝だ/喜びに胸を開け/大空仰げ/ラジオの声に/健かな胸を/この薫る風に開けよ/そーれ、イチ、ニ、サン〉〈公園の緑の中では、ホームレスの人々もビニールシートから出てきてラジオ体操した。聞けば「夜、もう死にたいと思っていても、朝ラジオ体操すると体のコリがとれ、今日もやるぞって感じがする」そうで、体操の後、勇んでドーナツ屋へドーナツを拾いに行く。上野公園で、この時刻にラジオ体操しないのは交番の警官だけだった。〉(本書より)
 朝の六時三〇分、ふとんの中。で、ラジオ体操を聞く。ラジオ体操の不思議は、体を動かさずに、丸まっていても、ラジオから流れてくる、はずんだ声に、自分も一緒になって、ラジオ体操をやっているような気分になってくる。もう、それだけで、体内の血が全身に流れだす。
 〈これはただの健康体操なのだろうか。大体、ラジオ体操は運動としては楽すぎる。それに雨に打たれながらラジオ体操する様は不健康である。体操というより、むしろ日本人の習俗、教義こそないがまるで「宗教儀式」のようである。日の丸や君が代に何の感慨も抱かない私も、なぜかラジオ体操には共振してしまうのは実に妙なことではないだろうか。〉(本書より)
 「照れちゃダメよ。照れると背伸びもピッと伸びないから」と、いうことらしい。元気になろう。元気は命よりも大切である。元気あっての命だから。ラジオ体操あっての命だから。〈昭和三年、ラジオ体操第一、放送開始。〉ラジオ体操第三まで昔はあったという。またしても、あのエノケンの笑わずにはいられない踊りを思いだしてしまった。







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