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評者◆小嵐九八郎
歌の根を思おう──足立倫行著『倭人伝、古事記の正体――卑弥呼と古代王権のルーツ』(本体七六〇円・朝日新書)
No.3103 ・ 2013年03月23日
60年安保の年に高校に入学し、国語の古文の時、日本書紀と古事記の抜粋を学んだ。《さねさし 相模の小野に 燃ゆる火の 火中に立ちて、問ひし君はも。》(角川日本古典文庫『新訂古事記』から、今は引く)
この歌を古事記で知り、詩心というのは思春期から青年時代に最も奔放になるはずで、かなり感激した。「問ひし君」は、知っての通り、倭建。黒澤明の『七人の侍』で三船敏郎の演じる侍以上に勇敢で粗暴、兄をもぶっ殺す酷さも持っているキャラクターなのに、父の天皇には愛されず遠征ばっかりさせられる哀しい性。この歌の歌い手は、海の波を鎮めようと倭建に代わって入水した弟橘比売。命懸けの恋とか、自らの命と引き換えても悔いのない愛とかに胸を突かれた記憶がある。日本書紀の歌謡には、そういう感動がほとんどなかったのは若過ぎたからか。 ところが、大学に入り、やがて学生運動に出会うと、古事記、日本書紀は天皇制の元締めの話みたいな雰囲気があり、ま、俺も、郷に入れば郷に従え、とどこかに放った。ま、ここいらで、イスラエル史の十戒も含めての事実を神話的なものをも混じえて言語化し、“国家”を造った凄みを主張したなら、ちゃんとした活動家になれたかなと、つまらない反省をしている。旧約聖書には『詩編』もある。それで、二十五年前あたりから、自称歌人となり、冒頭の古事記の歌を読み直すと、やっぱり迫力が異常にあるのだ。なぜだ? 『倭人伝、古事記の正体──卑弥呼と古代王権のルーツ』(足立倫行著、朝日新書、760円+税)が最近出てすぐ飛びついた。足立倫行氏は三年前に『激変!日本古代史──卑弥呼から平城京まで』(朝日新書)を出し、古代史オンチの当方に、学説のいろいろを“素人”から説き、それらを結び、かつ“足”で判断し考えることを興奮させて教えてくれた。その、第二弾である。 そう、冒頭の歌がなんで迫る力に満ちているのかも「天皇家の強力なライバルの出雲とその王者」の想いや“危険な書物”の古事記の検証と由来の焙り出しで解りかける。俺と同じく不勉強な歌人は読んで歌の根を思おう。 娯楽トンボの眼 (作家・歌人) |
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