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評者◆内堀弘
山口昌男さんのこと──砂塵を巻き上げるように古本を積み上げた
No.3103 ・ 2013年03月23日




某月某日。山口昌男さんが亡くなった。その日、東京は激しい砂嵐が吹いて、山口さんが慌ただしく立ち去っているようだった。そういえば古書展でも、それこそ砂塵を巻き上げるように古本を積み上げたものだ。
 もう二十年ほど昔、東京外骨語大学という小さな集まりができた。外骨は好奇心の権化=宮武外骨に由来するものだ。学長が山口さんで、助教授(なぜか教授ではなくて)が坪内祐三さん。学生三人は古本屋で、なないろ文庫の田村治芳(『彷書月刊』編集長)、月の輪書林の高橋徹、そして私だった。何かを勉強するような会ではない。集まっては古本の話をして、淡嶋寒月の忌日だといえば、寒月の軸を掛けて皆で鍋をつついた。
 神保町では、司馬遼太郎とか松本清張、井上ひさしが新作に取り組むと、古本の相場が上がるといわれた。この作家たちは参考文献の収集を懇意の古書店に任せていた。その店が役に立ちそうな文献や研究書を大量に集めはじめるのだ。無駄のないきっちりとした品揃えだったのだろう。山口さんはおよそ真逆のタイプだった。
 山口さんは古書展を駆け回った。そして、本人が言うところの「駄本雑本」を山のように積み上げた。謙遜ではなく、私たち古本屋からもそう見えた。それでも、山口さんが拾い上げたその一冊、たとえば明治時代の無名な商店主の伝記に、思いもよらない人の繋がりを発見し、それまで見えなかったネットワークが浮き彫りになっていく。その熱弁を聴いていると、面白い古本はまだまだ埋もれていると、わくわくしたものだ。それこそが外骨語大学の真骨頂で、その熱弁は、信号待ちの路上だろうが、電車の中だろうが、突然はじまるのであった。
 山口さんは、古書会館がまだ平屋の頃(つまり昭和三十年代)から古書展に出かけていた。それだけ見ていれば、古書の玄人になるはずだが、そうはならなかった。好奇心を旺盛に保ち、古本の現場で駄や雑なものに目を向け続けた。
 いつだったか、山口さんと待ち合わせをするのに、その時間にある出版社で社長と会っているから、社長室に来いと言われた。勘弁してくださいと、私はその会社の受付で待った。やがて山口さんが見送りの社長と一緒に降りてきた。山口さんは親子ほど若い私のことを「友達です」と紹介した。私は戸惑いながらおじぎをした。還暦を過ぎても、古希を過ぎても、慌ただしく、自由で、なによりも平等な人であった。
(古書店主)







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