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評者◆竹原あき子
オペラ座は「博物館―図書館」でもある
No.3098 ・ 2013年02月16日




 パリのバスティーユに新オペラ座ができて、以前からあったガルニエの建物はバレー専門の劇場になった。だからといってオペラという名前が消えたわけではない。オペラ座とはいうものの、オペラを鑑賞するだけの劇場でもない。《博物館―図書館》が併設されている。もちろん収蔵品は、1669年以降オペラ座で公演した音楽の楽譜、オペラの台本、舞台衣裳、舞台装置、デザインのデッサン、舞台装飾の模型、アクセサリー、ポスター、プログラム、写真などの資料約60万点、そしてガルニエという建築家の資料がつまっている。舞台に関係する研究者にとっては宝石箱だが、それにもまして建物そのものが宝石以上だ。ローマ大賞を獲得して、ギリシャから中近東に、とあらゆる古典建築を学んだガルニエがパリ・オペラ座のために選んだのは、絢爛豪華なバロック様式だった。完成は19世紀の後半、1875年だったから日本の明治初期にあたるが、ここにはベルサイユ宮殿の鏡の間を思わせる回廊があり、地下には「オペラ座の怪人」の舞台になった空間もある。
 図書館に入る狭い通路両側の天井までを埋め尽くす書籍には圧倒される。というのは、読書室の2階部分をこの通路から手摺越しに見上げれば、際限なく遠くに本が並んでいるのではないか、と思わせる工夫があるからだ。通路を進むにつれて前方に女性がいることに気がつく。出迎えてくれるのはエドガー・ドガが描いた「バレリーナ」。その女性に挨拶をして通路の突き当たりを左に曲がれば、やっと図書館入り口にたどりつく。といっても、専門家しか利用しないこの図書館を発見するのは難しい。案内のサインが全くないからだ(閲覧には国立図書館の許可書が必要)。
 公演のない日のオペラ座見学、あるいはオペラ座の博物館での展覧会開期中に訪れれば、この「バレリーナ」までは自由にゆきつくことができる。書籍の間に展示してある舞台装置の模型も面白い。2012年夏には、フランスの作曲家で19世紀から20世紀初頭に活躍したマスネの作品、1877年に上演した「ラオールの王」の小さな舞台模型の展示があり、135年前のヨーロッパのエキゾチシズムがみえる。《博物館―図書館》オペラ座、と名乗るのは、オペラというアートを立体的にわからせる設備であることの表明だ。
(和光大学名誉教授、工業デザイナー)







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