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評者◆内堀弘
堀切利高さんのこと──『彷書月刊』創刊に参加した在野の研究者
No.3098 ・ 2013年02月16日




某月某日。昨年の末に堀切利高さんが亡くなった。八十八歳だった。
 一九八五年、私たちは小さな出版社を立ち上げた。私たちというのは、三十代の古本屋三人と、還暦を迎えようとしていた堀切さんだ。
 堀切さんは高校の教員を退職して、『荒畑寒村著作集』の編集委員を務めるなど在野の研究者として活動していた。
 この出版社は、たとえば古本屋が独自に出版をするとき、それを流通に乗せる共同のテーブルを作ろうという試みだった。一応株式会社で、社是は「各自生活手段は別途確保すること」。凄いものだった。
 ランニングコストを捻出するために『彷書月刊』という月刊誌を発行した。だが、これに追われるばかりとなる。
 神保町に借りた小さな事務所に私たちは毎日のように集まった。編集の経験などなかったから、創刊号を出すのも一苦労だった。やがて二十代の専従編集者が加わり、雑誌が廻りはじめると、事務所はさながら古本好きの梁山泊となっていった。
 あの頃、在野の研究者には恐ろしいほどの「古書の目利き」がいたものだ。堀切さんを訪ねて誰かが顔を出し、「こんなものを見つけたよ」と話をしていく。それを間近で聴けたのは愉快な時間だった。
 堀切さんは雑誌に関わり、伊藤野枝の全集を編集し、この国の初期社会主義のアーカイブを整備していった。還暦を過ぎてからの仕事だ。
 『彷書月刊』は紆余曲折を経て二〇一〇年に終刊した。創刊メンバーの一人、なないろ文庫の田村さんが最後まで支えたが、闘病の末に亡くなった。そう、ちょうど還暦だった。三十代だった古本屋はようやく創刊の頃の堀切さんの年齢になったのだ。
 もし、これから若い(しかも生意気な)古本屋と一緒に月刊誌を起ちあげようと言われたら、私にはとうていできそうもない。あれは、どれほどの根気とおおらかさであったのか。
 通夜に向かう電車の中で、そういえば四人で撮った写真が一枚もないことに気づいた。撮っていればずっと若い堀切さんが写っていたのだろう。なにしろまだ還暦だ。
(古書店主)







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