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評者◆竹原あき子
懐かしい夕刻図書館、フォルネイ
No.3097 ・ 2013年02月09日




 基本的に13時から19時30分まで開いているのがフォルネイ図書館。1960年代後半に留学生だった筆者は、学生寮の暖房設備の悪さに耐えかねて、夜まで開いているこの図書館に救われた。本を読むというより寒さしのぎの場だったこの図書館は、偶然、アートとデザイン専門だった。
 実業家として成功したサミュエル・エメ・フォルネイは、若き職人養成のためにパリ市に莫大な金を寄付した。1883年パリ市はその資金で職人に役に立つ技術、工芸、芸術、建築、モード、デザインの書籍、参考資料などを購入し、フランス革命のために立ち上がった家具職人の街、フォーブール・サントノレ通り近くの学校に図書館をつくった。だが閲覧者があふれ、1911年にパリ市は専用図書館のためにサンス館を購入するが、古い建物だったため、1961年にやっと開館というほど改修工事には長い時間が必要だった。サンス館の建築は、1475年に始まり1519年に完成するというほど長期にわたる工事だったために、ゴシック様式とルネッサンス様式が入り交じっている。その結果、中世の面影を忠実に残すパリでは珍しい建物、フォルネイ図書館が生まれた。ゴシック建築を彩るガルグイユという想像上の動物の形をした雨樋を近くで見られるのも面白いが、2階と3階の読書室の間にフランボワイヤン様式の間仕切りが復元されているのもみごとだ。しかも窓から眺める庭も、規模は小さいがフランス庭園の典型だ。アートと建築そして工芸専門の書籍、世界中の定期刊行物を楽しむことができ、しかもポスターのコレクションがあり、付属する展示館での公開もフォルネイ図書館の楽しみの一つ。
 だがセーヌ河に近い、という理由で不便なこともある。10年ほど前、セーヌ河の上流に大雨が降り、パリ近郊でも水位が7メートルも上がった。それ以来地下室にあった蔵書はすべて水害を受けない場所に移管され、貴重な蔵書は請求書を出してから2日後にやっと手にとれるようになってしまった。不便になったが、書物の安全に万全の手を打つのもフランスの文化のありかただろう。
(和光大学名誉教授、工業デザイナー)







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