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評者◆竹原あき子
ブキニスト、セーヌ河畔の本屋
No.3096 ・ 2013年02月02日




 美しい都市には河が流れる。いや河という流通のインフラがあったからこそ都市は誕生した。船から列車そして自動車に、と流通と移動のインフラをゆずりながらも、河の流れはあいかわらず都市に豊かな表情を与えている。パリのセーヌ河はその典型の一つだが、両岸をブキニストと呼ぶ古書店の本がつまった緑の箱が彩っている。その数900、ほぼ30万冊が右岸はポン・マリからポン・デュ・ルーブルまで、左岸ではトゥルネル岸からヴォルテール岸まで、3キロにわたって並び、その2本の濃い緑色の箱はセーヌの流れを化粧するアイラインのようだ。ブキニスト屋台のデザインは、長さ2メートル、幅75センチ、高さはセーヌ河に面した側で65センチ、手前で35センチ、そして蓋があいている時の高さの限度は2メートル10センチ、とあくまでも景観の統一に工夫を怠らない。
 セーヌ河にふさわしいアクセサリーに成長したブキニストの始まりは、16世紀に生まれた移動雑貨屋だった。扱い品目の一つだった書籍は、17世紀に検閲を免れた書籍の流通をおそれた権力側が販売を禁止し、定位置販売が許可されたのは1859年、というほど書籍は危険な、いや影響力のある存在だったのだ。
 ブキニストになるにはパリ市観光局のオーディションを受ける。2012年は20個の空きスペースのうち12に営業許可がでた。選抜は住民票、収入証明や売りたい本の種類などが明確であればいい。日が昇ってから日が暮れるまで、休暇は6週間、3カ月以上の無断閉店はいけない、などという規則はあるものの、セーヌの風にふかれながら日がな一日読書も昼寝もおしゃべりもでき、蓋を閉めるだけで閉店、という優雅な職場でもある。
 ブキニストは、書籍販売店舗をパリ名物に成長させ、書籍はセーヌ河を彩るアクセサリーになった。
(和光大学名誉教授、工業デザイナー)







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