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評者◆秋竜山
あまり流行しないのだろうか、の巻
No.3095 ・ 2013年01月26日




 人は、当たり前のことには驚かない。当たり前ということは時間がたっているということだ。この、当たり前のことが初めて人前に姿をあらわした時、人は驚く。ある日、突然、茶の間で、家族全員がいる中で、スカートをはいていた母が、さか立ちをした。驚かないものは一人もいないはずだ。この驚きこそ、芸術的表現でいうならば、「シュルレアリスム」ということになる。「シュルレアリスム絵画」とは、このような驚きをねらった芸術作品ということだろう。つまり、驚かないシュルレアリスムというのはありえないということだ。この、さか立ち母も、家族の誰もいない茶の間で、自分ひとりだけで、さか立ちしている時、これは「シュルレアリスム」ではなく、只のさか立ちである(ネコがいたとしたら、ネコが驚いたとしても)。母の家族が目を丸くさせて驚いた劇的瞬間のさか立ちも、毎日いやになるほどさか立ちをしても誰も驚かなくなってしまう。「またか」ということになり、「隣の部屋でやってよ」と、いうことになってしまう。つまり、当たり前のことになってしまったからである。別のいいかたをすると、古典になってしまったということだ。シュルレアリスム絵画も、もちろん画集から切り取ったものを自分の部屋のカベにビョウでとめておいてあったとしても、驚きということもなく、忘れられた存在のようなフンイキもなきにしもあらずだ。速水豊『シュルレアリスム絵画と日本――イメージの受容と創造』(日本放送出版協会、本体一二六〇円)を読むと、カベのシュルレアリスムの切り取り絵画に気をとめる。ナンセンス漫画に見る驚きの後から押し寄せる笑いと同じように、シュルレアリスム絵画の驚きの後にくる「ウーム」とうなる芸術性。私は漫画家である以上、どーしてもナンセンス漫画の方に肩入れしたくなるのだが。笑いに、である。
 〈一九二九年九月、東京上野の美術館では毎年恒例の二科展が開かれていた。(略)二科展に突如として現れたこの新しい表現はいったい何なのだろうか。当時の芸術雑誌のいくつかの批評は、これを「シュルレアリスム」が日本に登場したのだと見なした。これを日本語に訳すと「超現実主義」となる。〉(本書より)
 日本のシュルレアリスムとなると、どーしても、古賀春江という名が浮かび上がる。古賀春江が出品した〈海〉という作品だ。
 〈水着を着た女性と、潜水艦が進む海のなかの光景や工場と機械の図が、遠近法を無視して組み合わせられていた。〉(本書より)
 水着姿の女性が、いかにも当時の水着といういで立ちであって、なつかしく胸がつまる。それらのものはさて置き、潜水艦である。〈潜水艦の描写法〉という項目がある。この項目によって、よくよく考えてみれば、又それなりのたのしみかたとか、驚きかたを見つけることができるものだ。この潜水艦の描法は、今さら大さわぎするほどのことはない。〈機械の内部と外部を同時に図示した〉要するに〈内部構造がむき出し〉になって海中を進んでいる。ちょうどアジのひものが海中を泳いでいるようなものだ。
 〈古賀が参照したと思われるのは、「科学画報」1928年5月号に掲載されたフランス海軍の潜水艦の図である〉(本書より)
 と、いうことだ。今、あまり流行しないのだろうかシュルレアリスム絵画。一流の画家による新シュルレアリスム絵画をみたい。







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