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評者◆小嵐九八郎
俳句史をひっくり返す、凄味のある詩──大道寺将司著『棺一基 大道寺将司全句集』(本体二〇〇〇円・太田出版)
No.3095 ・ 2013年01月26日




 《異なものを除く世間ぞすさまじき》
 俳句だが、ある意味では詩型に律義な作者なのに、思わず季語を捨ててしまったとも映る。原発安全神話を疑った人に対して、2011年3月まではこうであったし、先般の11月11日の反原発の日比谷公園での集会やデモを都は認めず、認めないのを地裁、高裁は追認した。雨の中を、俺は経産省前のテント村を訪ね、国会前へと行き、短詩型ブンガクがアジテイションを時に歌うしかない心が解りかけた。
 《天井のカメラの覗く大西日》
 なるほど、今や都会のどこにでも人人の一挙手一投足を看視するカメラはあるが、最初は“自殺防止”という口実で、二十五年ぐらい前になるか未決囚の懲罰房、死刑囚の独居房に導入された。世の中が監獄に近くなっているのか、監獄の管理おげーじつに世を作り変えてきたのか。やがて、学校の便所では苛めをやり易いから、公衆便所で煙草を吸うからとカメラがトイレの中に常置される日がきそうだ。ゆえに、管理に慣れきった人人は、激変に対応できず……。
 いずれにしても、日本国で最も厳しい看視の下で、しかも、多発性骨髄腫という癌の歩行困難な中での冒頭二句は、「反日武装戦線『狼』」に属し、兵器産業でもある三菱重工業本社に爆弾を仕掛け、八人の死者や重軽傷者を出した、大道寺将司氏が作ったものだ。四月に出版された『棺一基 大道寺将司全句集』(太田出版、本体2000円)に収められている。この句集は、俳句史を引っくり返す燎原の火のごとき勢いで売れている。詩型は極限的に短いほどに、作り手を炙り出す。俳句が、大道寺将司氏に吸われた感じがする。氏よ、すみません、冒頭二句とは比較にならぬ凄味のある詩がかなりある。
 《棺一基四顧茫々と霞みけり》
 句集のタイトルの元だ。光景に震える。
 《藺の薫り満ちて野となる独居かな》
 居房の畳替えがあってもなくてもロマンが。
 《まなうらの虹崩るるや鳥曇》
 こう歌わざるを得ぬ心情の大未遂事件を知ると、この句は、さらに万倍ほどに羽ばたく……。
(作家・歌人)







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