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評者◆阿木津英
三島由紀夫・吉本隆明・玉城徹──「平成版第二芸術論議」と「戦中派」の思索
No.3095 ・ 2013年01月26日




 昨秋あたりから、金井美恵子の短歌批判が歌壇にくすぶっている。「たとへば〈君〉、あるいは、告白、だから、というか、なので、『風流夢譚』で短歌を解毒する」(『KAWADE道の手帖 深沢七郎』収載)という、標題からして〈河野裕子現象〉や岡井隆と天皇制を連想させる金井の文章に賛否両論、歌人たちの反応が散発的に出たが、『短歌年鑑』平成25年度版では「金井美恵子の歌壇批判に応える」と冠した島田修三の特別論考も出たようだ。
 「ようだ」と書くのは金井の文章を未だ見ておらず、歌人たちの反応を逐一追跡してもいないからである。自浄作用を無くした歌壇の腐臭が金井美恵子にまで届き、その歯に衣きせぬ直言に平成版第二芸術論議が起きているとおぼしく、不毛の議論の繰り返しという予感がするからでもある。
 それより遠望してよく見えるものがある。やはり戦争責任と敗戦処理問題を日本ではうまく乗り越えることができなかったということ。そのつけがこうして回ってきているのだ。
 たまたま手元に富岡幸一郎の新刊『最後の思想──三島由紀夫と吉本隆明』(アーツアンドクラフツ)がある。吉本は大正13年、三島は大正14年の生れで、二人とも戦中派世代であった。同世代の多くを戦争で失い、戦前と戦後の断絶を生きた二人は、戦争責任と戦後の敗戦処理問題をそれぞれ異なる「解法」を身をもって示した。そのことを富岡の著書は教えてくれる。
 ここにもう一人、まったく別の「解法」を示した大正13年生まれの玉城徹を置いてみたい。じつはその「解法」がどんなものか、まだはっきりとわたしたちにもわかっていないのだが、三島とも吉本とも異なるのは確かである。
 一昨年七月に発足した玉城徹研究会「左岸の会」が、その最初の成果として「玉城徹ノートⅠ──第一歌集『馬の首』を読む」を刊行した。『馬の首』から第二歌集『樛木』にかけては、戦後の模索期から方向が定まってゆく時期にあたる。年に四回の地道な研究がこれから何を見せてくれるか、大いに期待したい。
 かなしみて思ふといへどあな醜魁帥の如く死にせる
 歌集『樛木』の「或る同時代者の死」より。三島をうたった歌である。
(歌人)







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