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評者◆竹原あき子
子どもも シエクスピア・アンド・カンパニー書店
No.3095 ・ 2013年01月26日




 子どもでも書籍に埋もれたいと思うだろうか。そんな疑問を払拭する姿が、この書店で時々みられる。「チルドレンズ・アワー」が時々開催され、「2歳から6歳までの子どもをお連れください。1時間ほど音楽と英語のお話で一緒に遊びましょう。どんな国籍でも、英語がわからなくても心配ありません」などと呼びかけ、親と子を一緒に読書に誘う。参加には「4ユーロほどの寄付をお願いします」と書いてある。このアングロサクソン的な呼びかけに、フランス人だったら参加費用は4ユーロとするか無料にするにちがいない、と近くて遠い文化の差を発見して嬉しくなる。
 催し物がない日に訪れる親子には、書店の2階にある子ども向け書籍コーナーが定席だ。ここの書棚の2階の書籍の多くが図書館扱い。それらの本は好きなだけ店内で読むことができる。だから深紅のカーテンが下がっているおとぎの国の舞台のようなステージに陣取って、本を前に、親子はつかのまの物語の主人公になりきる。子どもにとって父親と書籍が重なり、本は離れがたいモノになる。
 ピアノと長椅子のある2階の小部屋からエリック・サティのピアノ曲が聴こえてきたり、本を枕に書きかけのペンを指に挟んだまま長椅子で昼寝をする青年がいたり、備え付けの肘掛け椅子を長時間占有して読書にふける若者。誰も邪魔せず、誰にも邪魔されず、客の好きな時間に好きな振る舞いを許すこの書店はもはや書店ではない。やってくる本好きのための心地よい我が家なのだ。文学青年のためのベッドの用意があり、食事さえ提供してきたシエクスピア・アンド・カンパニー書店。その長い物語は同名の本に詳しい。
 現在の店主はシルヴィア・ウイットマン。初代のアメリカ人ジョージ・ウイットマンの娘だが、この名前の書店は、アメリカ人女性シルビア・ビーチが1919年にパリの別の場所で開店し、彼女の死後1962年にウイットマンが名前を引き継ぎ、今ある場所で創業当時の精神「書店に見せかけた社会主義者のユートピア」的営業を続けてきた。いずれもヘミングウェイ、フィッツジェラルド、ジェイムス・ジョイス、ウィリアム・バロウズ、ヘンリー・ミラーなどが常連だった。ドアには「見知らぬ者にもつれなくするな。変装した天使かもしれないから」との文字がおどる。
(和光大学名誉教授、工業デザイナー)







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