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評者◆黒古一夫
中国の書店──中国から見た現代の日本に迫る、短期集中連載・番外編②
No.3094 ・ 2013年01月19日




 番外編①で伝えたように、受験戦争を勝ち抜いてきた中国の学生は、全員が寮(四人部屋)住まいということもあるのか、図書館や空き教室を使って実によく「勉強」する。その勤勉振りには驚嘆せざるを得ない。
 そんな彼らに、教材(日本近現代文学作品)はどのようにして手に入れるのかと聞くと、まず図書館(外国語学院の資料室)から、次に教師の蔵書、そして次にはネットで購入、最後に書店での購入、という答えが返ってきた。そこで、中国の書店ではどのような日本文学書が売られているのか、学生の案内で二つの書店(一つは、湖北〈省〉長江出版集団が経営母体になっている大型書店、もう一つはショッピングモールにある四階建ての書店)に行ってみた。また、書店に行きたいと思ったもう一つの理由は、先頃北京の書店が尖閣列島の国有化問題によって緊張状態にある日中関係のあおりを受け、店頭から村上春樹をはじめ日本文学の書籍を引き上げたという報道を受け、村上春樹がそのような「愚行」について「安酒の酔いに似ている」と題して朝日新聞に寄稿した(九月二八日付)が、ここ武漢で実際はどうなのか、知りたかったのである。
 結果的には、両方の書店とも、「外国文学」のコーナーの一角に堂々とかなりのスペースを占めて、『源氏物語』や『徒然草』などの古典文学から村上春樹や東野圭吾などの作品までが並び、北京と武漢ではどうも様子が違うのではないか、と思わざるを得なかった。書棚には、並んでいた近現代文学作家だけを一部列記すると、夏目漱石、泉鏡花、宮沢賢治、織田作之助、江戸川乱歩、坂口安吾、大江健三郎、安部公房、三島由紀夫、司馬遼太郎、松本清張、森村誠一をはじめ、渡辺淳一、宮部みゆき、吉田修一、赤川次郎、桐野夏生、等々の作品があり、その様相は日本の書店と全く変わらないものであった。 案内の院生たちによると、このようなスペースでの日本文学の並びは、尖閣列島問題が起こる以前と全く変わっていないという。ならば、北京での一種の「焚書」騒動は何であったのか。「政治」に敏感な北京ならではの現象だったのかもしれないが、ここ武漢の現状からは民間(外交)レベルの交流は止まるところを知らずに続いていることがわかり、わが身を振り返りつつ、「ほっと」することができた。
(文芸評論家)







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