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評者◆竹原あき子
本に埋まる!──シエクスピア・アンド・カンパニー書店
No.3094 ・ 2013年01月19日
天井をつきぬけるほど積み上がった本が壁をつくる小さな本屋を偶然のぞいて、すっかり虜になった。内部は真っ暗だが、気がつけば英語の書籍しかない。ノートルダム寺院を背にして左側のセーヌ河の岸に面している新中古書店シエクスピア・アンド・カンパニーがそれだった。不思議な名前だが、いつでも店内は人で溢れている。といってもレジで支払いする人影はあまりなく、売り上げが良い店とは思えない。ここに来るほとんどの人はおそらく本に身を埋めたいという気分にかられて、いやもしかしたら本好きの人間に囲まれたい、と願ってやってくるとしか思えないのだ。入り口には一般的なパリ観光案内の本、中に入るに従って文学、哲学、アートと続くが、二階に上る階段で、その手すりと壁にまた驚かされる。世界中からやってきた旅人のメッセージが張ってあったり、イラストレーターの作品で一杯だったり、空きスペースはどこにもない。書店のあらゆるスペースが文字とイラストで埋め尽くされている。紙ベースの情報で溢れかえっているのだ。
パリには、英語の書籍を扱う書店は、ルーブルの近くにあるガリニャーニというヨーロッパ大陸で最初の英語の本屋という有名な老舗を筆頭に、いくつかある。だがこのシエクスピア・アンド・カンパニーほど神話に満ちた書店は他にない。アメリカ人の貧しい文学者が数多く世話になった、という話をパリ住人なら誰でも知っているほどの書店なのだ。 日本人、といいたいところだが、アメリカ人ほどパリが好きな国民はないだろう。だが母国語が通じないヨーロッパで寂しさに耐えかねるのもアメリカ人のようだ。同じ英語を話すイギリス人がこの書店にはあまり集まらない、というから、アメリカという国とフランスの距離が原因でアメリカ人はパリで寂しさを募らせるのだろう。だからシエクスピア・アンド・カンパニーには母国の言葉で語る相手をみつけ、母国語の書籍のなかに身を浸し、様々な催しに参加するアメリカ人、なかでも文学を志す青年たちの姿がある。書籍はニンゲンを結びつけるモノでもあるからだ。 (和光大学名誉教授、工業デザイナー) |
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