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評者◆竹原あき子
非・漫画オタクの椅子
No.3093 ・ 2013年01月12日




 世界第1位の漫画愛好国は日本だが、第2位はフランス。20年前には大手の書店だけに日本の漫画コーナーがあった。では2012年はといえば、中規模の書店にも専用の棚があり漫画コーナーはますます健在だ。立ち読みの青年に「左から右に開く日本の漫画本の方式に違和感はありませんか」と尋ねたら、「ナーンテコトありませんよ。10年前から日本漫画を読んでますが、最初の5ページで慣れました」と右開きと左開きという書籍の綴じ方が文化の壁になることはなかった。明治の日本もおそらく同じだったろう。
 パリのオデオン劇場の近く、サンジェルマン通りと平行する細い裏道にある漫画の古本屋がおもしろい。アメコミをはじめ、世界各地からフランスにやってきた漫画本が床から天井までを埋め尽くす。ラビリンスのような店内にある日本の中古漫画もなかなかの品揃い。『鉄腕アトム』はもちろん、『はだしのゲン』フランス語版全10巻が細い紐でくくられてあった。世界各国の言語に翻訳されているとはいえ、フランスにも多くの愛読者がいたのだ。原爆投下60周年にパリ市役所で開催された展示会場にも、ゲン10巻がすべて太い金属の鎖で繋がれていた象徴的な姿が眼にやきついている。
 その書店の本の山と山の間に白く塗った籐の椅子が一脚。まるで夏のバカンスの名残を思わせる不思議な存在感に驚き、なぜこんな所にこんなものがと不思議だったが、壁にかかっていた一枚の張り紙で理由がわかった。「この椅子は漫画嫌いな方に優先してお座りいただきます。そしてご伴侶、ご両親、お子様、ご友人の皆様が、漫画オタクの買い物が終わるのを待つためのものです」と書いてある。置かれたクッションのすり切れ具合が使用頻度を物語るが、それほどここには漫画オタクとオタクではない何人かの連れが群がるようだ。非・漫画オタク用の椅子のサービスは、頻発する非・漫画オタクたちの不満の声を鎮める店主の苦肉の策だったにちがいない。
(和光大学名誉教授、工業デザイナー)







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