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評者◆内堀 弘
全集暴落――『古本の雑誌』(本の雑誌社)好評の一方で
No.3093 ・ 2013年01月12日




 某月某日。昨年の秋、別冊『本の雑誌』として『古本の雑誌』が出た。一冊まるごと古本、古本屋の話が満載だ。
 ここに「全集の古書価はこの10年間でどう変動しているのか」という記事がある。これは1998年に載ったものの再録なので、1989年から98年の10年間の変動だ。
 たとえば『伊藤整全集』は89年に22万円だったが98年には14万円。『鴎外全集』も7万8千円が5万6千円と値を下げているが、一方で、『明治文学全集』(筑摩書房・全百冊)のように35万円が55万円と値を上げているものもある。
 古書の世界で全集物は花形だった。神田でも早稲田でも、そこを古書店街らしくしていたのはズラッと並ぶ各種全集の姿だった。品切れになって古書価が上がり、新しい版が出て値が下がる。よくあることだった。しかし2000年代に入るとそうしたことと関係なく全集は急速に人気を失っていく。
 私は1980年に古本屋をはじめた。在庫らしい在庫もないなかで、学生時代の友人から『鴎外全集』を頒けてもらった。思えば、学生がバイトの稼ぎで全集を買っていたのだ。その頃『鴎外全集』は業者市でも10万円を超える高額品だった。駆け出しの古本屋には本当に嬉しい(というか誇らしい)在庫で、売価を12万円にするとすぐに売れた。その栄光の『鴎外全集』が98年には半分以下となり、現在の古書価をインターネットで調べると、38冊揃(つまり同じ物)の最安値はなんと9800円だった(送料ではない)。
 『鴎外全集』だけではない。22万円が14万円に下がっていた伊藤整は1万8千円。55万円に値上がりしたという『明治文学全集』100冊揃は6万円である。他の全集類も似たようなものだ。
 これをデフレと嘆くことができればまだ幸せなのだが、きっとそうではない。床の間や応接間が家庭から消えたように、個人が「全集」を持つという風習そのものが、どうやら終わりかけているのだ。マホガニーの書棚に世界文学全集が並ぶ光景は、もう「昭和の暮らし展」でしか見られなくなる。
 『古本の雑誌』は好評のうちに重版されたというが、人々の風習のなかで、われわれ古本屋は今どのあたりにいるのだろうか。
(古書店主)







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