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評者◆伊達政保
エンターテインメントと社会的テーマを両立させた圧巻の映画――ムン・ヒョンソン監督『ハナ・奇跡の46日間』
No.3093 ・ 2013年01月12日




 この春公開予定の韓国映画『ハナ・奇跡の46日間』(原題KOREA、監督ムン・ヒョンソン)はスポーツ・エンターテインメント映画というばかりでなく、朝鮮半島の南北問題を扱った傑作である。それは1991年4月に千葉県幕張で開催された第41回世界卓球選手権大会に、史上初めて南北統一チームとして参加し、女子団体戦で当時最強の中国を破り奇跡の優勝を果たした。そして、その中心にはそれまで国際大会でライバル同士でその実力に互いに敬意を払う、大韓民国のヒョン・ジョンファ選手(演じるのは『TSUNAMI』などの人気女優ハ・ジウォン)と朝鮮民主主義人民共和国のリ・プニ選手(日本映画『空気人形』や『クラウド・アトラス』などのペ・ドゥナが好演)がいたという、実話に基づいている。
 映画は急遽結成されることになった南北統一チームの監督や選手たちが、政治やイデオロギー、依拠する文化の違いばかりでなく、選手構成や練習方法や戦術の違いによって反目し合いながらも、チームの勝利のために徐々に解り合い、最後には一つになって勝利を重ねてゆく姿を、涙とユーモアも交えながら描いている。こう書いてしまうと身も蓋もないがね。しかし『しこふんじゃった』から始まる『がんばっていきまっしょい』『ウォーター・ボーイズ』『スイング・ガールズ』『フラガール』といった映画の延長線上に、この映画があることは間違いない。32歳のムン監督はこうした日本映画から、多くのものを取り入れているようにオイラには思えるのだ。ただ日本映画にはない民族分断という厳然たる事実に対し、女性同士の友情と、根底に流れる民族文化(儒教だねえ)によって、たとえ一瞬であれ統一への希望を見出だしていこうという姿勢は、この映画独自のものであると考える。
 また在日コリアンにとってこの映画は、91年当時、民団や総連が一緒になって統一チームを応援したことを思い起こさせ、統一すなわち「ワンコリア」の思いを強くさせるものとなっている。大阪で毎年開催されている「ワンコリアフェスティバル」のシンボルである一を表す言葉ハナを、この映画の日本での題名としたのもその表れだろう。
 どうしてもそうした側面が強調されがちになってしまう映画だが、ヒョン・ジョンファ本人が指導をしている卓球シーンは圧巻である。ハ・ジウォンの情熱的演技も素晴らしいが、ペ・ドゥナのクールだが情熱を内に秘めた演技と台詞が泣かせる。北の選手役ハン・エリも印象深い。エンターテインメントと社会的テーマを両立させたこの映画を、現在の日韓、日朝の状況があるからこそ、多くの人に観てもらいたいと思う。
(評論家)







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