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評者◆石塚洋介
国旗の作用、破壊の意味──「反日感情」までが消費される現実を前に、我々がなすべきことは何なのだろうか
No.3091 ・ 2012年12月22日




 反日デモが一番激しかった9月15、16、18日(満州事変勃発の日)から2週間が経ち、中国全土が秋のゴールデンウィーク「国慶節」へと突入、観光地や高速道路が人で溢れる一方、都市は静けさを取り戻している。青島や広州と比べ、建物破壊などの被害が少なかった上海では、デモを伝えるものは今やほとんど残っていない。だが、街を歩いてすぐ気付くのが、市内に数多く存在するファミリーマートがまだ店先に中国の国旗を掲げていることである。
 デモが発生した当初、現在中国でビジネスを大々的に展開するファミリーマートやユニクロが、店舗で中国の国旗を掲げ、さらには「釣魚島が中国のものであることを支持します」と書いた紙を張る店までもが現れ、微博(ウェイボー、中国語版ツイッター)で話題になった。また家の近くで、本当は日系企業でないと思われる「銀座」という名前をつけたヘアサロンが、デモがあった週末に大きな中国国旗を掲げているのも見かけた。前者だけでなく後者にとっても、今回のデモはとんだとばっちりだったに違いない。
 デモが起こっているときはともかくとして、日常を取り戻した今、コンビニの入り口の脇に堂々と国旗が貼ってあるのは、シュルレアリスム的光景である。その国旗は記号として、何を意味しているのだろうか。一言でいえば、暴漢除けということになろう。暴漢除けとしての国旗。シーサーさながらである。メッセージとして解読してみれば、「私たちは日系企業ですが、誤解しないでください。中国の味方です」ということになろうか。国旗を見れば暴漢も思いとどまるのかどうか真偽のほどは確かでない。お守りを用意して、あとはただ祈るのみというわけである。
 香港のテレビ局が広東で反日デモに参加する人にインタビューをしたときの問答が一時期フェイスブックで流れ、たくさんの人にシェアされた。その人はインタビューで「もし私たちが、中国人が開いた日本の店を、そういう状況を知らずに壊してしまったら、たしかに間違っているかもしれない。でも間違っていても……理解できるでしょう?」と発言し、その結果、たくさんユーザーから理解できるか! というコメントをもらうことになったのである。
 しかし結局はそういうことである。グローバリゼーションの一角として、世界の工場、そして今では消費大国となった中国で、日本車を壊し、日本の店を壊す意味とは何か。壊せば、たしかに日本企業の利益に負の影響は出る。だがそれらの製品は、往々にして中国人の財産であり、中国人の労働から作られたものに違いない。だから壊すもの自体に意味はなくて、破壊する行為に意味を付与しているわけである。だが、破壊とは本質的に、創造と表裏一体であるはずだ。壊したあと、何を作るのか。不満が鬱積する現状を壊して、どのような新しい秩序が作れるのか。そこが見えていないところが、今回のデモで一番問われるところではないだろうか。共産党の「指導」のもと、こうしたデモは毎回同じパターンで生産され、メディアに消費され、消え去っていくように感じる。
 住んでいるところの向かいにある衣服の店で、デモの後「釣魚島は中国の領土と叫べば即2割引!」という呼び込みが張ってあるのを見たときには、失笑するほかなかった。もはや「反日感情」までが消費されるそんな現実を前に、我々がなすべきことは何なのだろうか。
(現代中国写真研究)







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