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評者◆秋竜山
破壊魔ピカソ、の巻
No.3090 ・ 2012年12月15日




 神の家、の居間には、ピカソの絵が飾ってあった。あの「泣く女」であった。西岡文彦『ピカソは本当に偉いのか?』(新潮新書、本体六八〇円)。この本のタイトルにビックリした。ピカソは偉いに決まっているからだ。この疑いこそナンセンスである。どーかしている発想だ。ピカソが偉くなくて誰が偉いというんだ。しかし、すごい発想だなァ。ゴッホの絵は本当に大芸術か? なんて、ある芸術家にいわれた時、私は椅子から落っこちそうになったが、その時と同じだ。
 〈ピカソは本当に偉いのか? これは、表だって言われることはあまりないかも知れませんが、じつは大半の人が心のどこかで感じている疑問なのではないでしょうか。改めて断るまでもありませんが、ピカソ芸術の最大の特徴は、その「わからなさ」にあります。(略)この「わからなさ」を特色とする画家に破格の評価が与えられる理由は、あまり説明されていないように思われます。〉(本書より)
 ピカソの偉いところは、「わからなさ」を描いたということになるわけだが、わかる人にはわかり、わからない人にはわからないという点だ。いや、もしかすると、誰もがわからなくて、神だけがわかるのかもしれない。わからなさゆえに大芸術家であり、気が遠くなるような高値がつけられる。ピカソの絵だから当然だという気にさせられるのがすごい。大芸術の条件は高値であるということだ。安値の大芸術などありえないだろう。展覧会場の並べられている絵画に付けられてある絵の値段は、あれがなくては、この絵は芸術として価値があるのかないのかの目安になるのである。あれがなくては、なにがなんだかサッパリわからない絵が並べられているだけということになってしまうだろう。ちっとも売れない絵を描き続けるビンボー画家の口ぐせは「アー、ピカソはいいなァ……。うらやましいなァ」である。だったら、ピカソになれ!! なれるわけがない。
 〈「破壊こそが創造である」という強引な理屈を、あたかも創造の真理であるかのように見なす現代美術に特有の価値観は、ピカソ芸術の破壊性とその思想的基盤となったニーチェの哲学によって確立されたものということができます。〉(本書より)
 ピカソは破壊魔であった。それゆえ大天才ということになった。ピカソから破壊をとったら何が残るのだろうか。ピカソの絵を子供の描いたような絵だと素人はいう。子供の絵は破壊された絵であるということだ。子供が子供の絵を描くのは当たり前のことであるが、大人が子供の絵を描くと大芸術作品となるのだ。ピカソがそれだ。ピカソの偉いところは(うらやましい)、女性遍歴であり、次々とその女性達を破壊していったということだ。それは、その女性がどのように作品化されたかを見ればわかる。
 〈ピカソは「女は苦しむ機械だ」と言っています。確かに、有名な「泣く女」の画面などを見ると、そこにはまさに彼がいうところの「苦しむ機械」としての女性の、断末魔の心理が描き出されています。〉(本書より)
 この絵を見ると、女性とはこんなものかと驚いてしまう。そして、確かに女性の泣いている顔をピカソ流にながめると、絵の通りである。神がそのように女性の泣き顔を創造したのだ。神の居間に飾ってある「泣く女」。わかるような気がしてくる。







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