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評者◆黒古一夫
日中関係は今後どうなるのか──中国から見た現代の日本に迫る、短期集中連載⑧
No.3090 ・ 2012年12月15日
今この連載を終わるにあたり、思うことが二つある。一つは、まだまだ「発展途上」状態にある中国における日本文学研究を進展させるために、なにができるか、ということである。指導している院生たちには、帰国したらできるだけ早く必要な基礎的資料(参考文献・先行研究、作家論、など)を送る、と約束しているのだが、長期的な視野に立てば、一人でできることなど高が知れているので、何とか篤志家などの協力を得て中国へ日本文学資料を送れないか、と考えている。ネックになるのは、何と言っても「輸送料金」で、船便にしろ、飛行機便にしろ、本や雑誌は重いので輸送費が高額になることである。何かいい方法はないかと模索しているのだが、尖閣諸島を購入するようなお金があったら、こういう場合に使ったら有効なのに、と思わず愚痴が出てしまうが……。
もう一つは、日中関係は今後どうなるのか。緊張(冷え切った状態)がこのまま続くのか。ささやかではあるが「招聘教授」として中国の大学に貢献し、「民間外交」の一端を担った身としては、気になって仕方がない。「アジアの隣人」である中国と角突き合わせていていいことなど何もないはずである。十万人を超える在留邦人の存在が象徴するように、日中国交が成ってから四〇年、これまでは順調に推移してきた関係が尖閣諸島購入問題をきっかけに、にわかに緊張の度を増し、先行きがわからないような状態になっている。 こんな「異常な状態」を喜ぶのは、一部のナショナリスト(国粋主義者)たちだけだろう。国境と時代を超えて人々に「生き方のモデルを提供する」(大江健三郎)文学と関わっている人間の一人として言わせてもらえば、いずれ歴史が解決するであろう「領土問題」などは一日も早く「凍結」して、これまでのように「安全」で「安心」できる日中関係になってほしいと思う。そうすれば、「日本文学」関係者を含む在留邦人は「肩身の狭い」思いをしないですむのではないか。緊張の続く中国(武漢)で三ヵ月を過した今(武漢市及び華中師範大学構内はずっとこの間「平穏」であったが)、そんなことを痛切に思っている。 (文芸評論家) |
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